
SDGs 大学プロジェクト×SANNO UNIVERSITY
産業能率大学の紹介
産業能率大学では、世の中で実際に役に立つ能力を育成する実学教育を根幹としています。
社会人・職業人としての基本的な能力やビジネスの実務知識とスキルを身につけ、主体性を持つ自立したビジネスパースンとしての教養を養うことを目指しています。「真剣に取り組む力」「実行する力」「深く学ぶ力」に焦点を絞りカリキュラムを設計しています。
また、コンサルティング機関である総合研究所と連携し、ビジネスの最新情報や最先端の動向を教育に取り入れるべく、企業や団体との提携に取り組んでいます。“産業界に最も近い大学”として学外とのコラボレーションを積極的に進めています。
産業能率大学の歴史は、日本初のマネジメント・コンサルタントであり「能率の父」と称される上野陽一が「日本産業能率研究所」を創立した1925年(大正14年)に始まります。この研究所は、現在「学校法人産業能率大学総合研究所」として活動しています。創立当初から欧米の近代的経営手法を日本の産業界に紹介・普及することに尽力してきました。そして企業向けのコンサルテーションや研修等を通して、産業界と緊密な関係を築き実績を積んでいます。産業界との密接な関係を持つ社会人教育部門と学生教育部門が有機的に運営されており、社会人向け教育の最新の知見を学生教育に活用しています。産業界の最前線で起きていることを学生がいち早く学修できる環境が整っており、学生の実践的能力の育成へと繋がっています。
産業能率大学の地方創生における先駆的な学び
「働く人一人ひとりが自分の持つ力を理解し、その力を十分に発揮できれば、仕事の能率は格段に上がり、その結果、企業や組織が発展していく」。これは創立者・上野陽一氏が説くマネジメント理論です。このマネジメント思想を受け継ぐ産業能率大学では、他の大学に先駆け取り組んでいるアクティブラーニングと、その深化系であるPBL(Project Based Learning)を教育の大きな特徴として挙げています。特に地方創生が謳われる前から取り組んできた沖縄県石垣市、神奈川県伊勢原市、神奈川県中郡大磯町、北海道帯広市、東京都目黒区の自由が丘商店街、湘南ベルマーレ、神奈川県中郡二宮町等とのコラボレーションは、学生が地域における三現(現場、現物、現実)を意識しながら実際にPDCAをまわす経験を積むことができる非常に良い機会だと評価されています。
その中でも今回は、学生が企画を立案し、大きな成功を収めた「自由が丘スイーツプロモーション」について取材させていただきました。
街ぐるみで取り組む“自由が丘スイーツプロモーション”
【学生が主体となる“自由が丘スイーツプロモーション”とは】
―まずは「自由が丘スイーツプロモーション」がスタートした時期と、その成り立ちについて詳しくお聞かせください。
経営学部教授 岩井善弘氏:2019年からスタートし、今年で5期目となりました。世界の洋菓子コンクールで数々の優勝経験を持つスーパーパティシェかつ「モンサンクレール」のオーナーシェフ・󠄀辻󠄀口博啓氏を客員教授に迎えています。「スイーツというコンテンツを使い自由が丘の街をブランディングする」をテーマとして、商品企画やプロモーションに取り組んでいく授業をスタートしました。大学で学んだ知識に加え、実社会のプロフェッショナルとのコラボレーションを通じて、主体性や社会人基礎力、ビジネススキル等を高めることを目的としています。
―辻󠄀口先生が産業能率大学において客員教授を始められたいきさつ、きっかけについてお聞かせください。
岩井氏:辻󠄀口先生は石川県七尾市出身で、東京に上京後、自由が丘で「モンサンクレール」を代表に数々の洋菓子店を営んでいます。そのため自由が丘を“第2の故郷”として認識してくださっています。自由が丘を愛しており、辻󠄀口先生の根底には「自由が丘のためにできることなら全面的に協力する」という想いがあります。「スイーツの街 自由が丘」をさらに盛り上げるために、大学の授業という新しいアプローチで何か一緒に作り上げていければ、ということで協力いただくことになりました。
【学生を率いるのは、あの世界的スーパーパティシエ・辻󠄀口博啓氏】

―毎年ユニークな商品が誕生している授業ですが、どのような形で行われていますか?
辻󠄀口博啓氏(以下辻󠄀口氏):少数精鋭体制で学生と共に課題に取り組んでいます。一時期は30名を超える大所帯でしたが、現在は一人ひとりの学生と密に双方向のコミュニケーションが取れる規模感にしています。
自由が丘スイーツプロモーションのプログラムでは、実践型授業を展開しています。自由が丘の街と「モンサンクレール」や「自由が丘ロール屋」「Feve」など私がオーナーシェフを務める4つのブランドをうまく使いながらスイーツプロモーションを企画し、形にしていきます。
また商店街を巻き込みつつ、お祭りなどを絡めながら学生が自分達の目標に向かって、年間通してその目標を達成できるよう指導していきます。プロジェクトチームには自由が丘の企業にも参加してもらっています。クリニックと連携して健康と美容の観点から商品開発をサポートしてもらったり、新聞販売店から新聞広告やメディアでのPR展開について指南してもらったり、スイーツプロモーションの運営ノウハウを全般的に学んでもらいます。
今回は、学生達には2つのチームに分かれて企画を考えてもらい、プレゼンしてもらいました。
【今年のヒット商品「黒いちじくのシュークリーム」ができるまで】
―今年は「黒いちじくのシュークリーム」が商品化されましたが、他にはどんな案がありましたか?また他の案と比べて「黒いちじくのシュークリーム」が良かった点なども合わせてお聞きしたいと思います。
辻󠄀口氏:もう一つの案は“ラムネ”を使ったものでした。黒いちじくの企画案の背景には今年起こった能登半島地震への想いがありました。震災をきっかけに「石川県の生産者を応援したい」という明確な目的があり、採用しました。通常商品開発には、半年〜1年ほどの期間をかけて進めていきます。採用されたチームはメンバー自らが調査を行い、パティシエである私や大学の名前を使いながら、実際に農家や取引先との交渉を行っていきます。
今回も農家との取り組みをしっかり表現しながら、私の店舗側のスタッフとも協働し商品を固めていきました。どう売っていくかを学生たちが考え、商品開発の途中経過や農家の現状について新聞でまとめて発表したり、SNSで発信したりしました。
―改めて実際の発案者である学生のお二人にもお伺いしたいと思います。「黒いちじくのシュークリーム」への想いやこの企画を立ち上げた理由などをお聞かせください。
前田紅葉さん・里田美月さん:私たちは、自由が丘の町の活性化に貢献したいという想いから、このプロジェクトを立ち上げました。住民同士の繋がりを強めることが、自由が丘をより活気づけるために効果的だと考えています。そこで、辻󠄀口先生の既存コミュニティを活用しながら、住民が主体的に交流できる場を提供したいと思いました。
また、石川県の復興支援に携わりたく、何かできないかと考えた時、能登で栽培されている希少な黒いちじく「黒蜜姫」を見つけました。自由が丘の皆さんに広く知ってもらうために、この黒いちじくを使用したシュークリームを提案し、自由が丘ロール屋に作っていただきました。限られた生産者しか栽培できない幻の黒いちじくをぜひ味わっていただき、その幸福感を皆さんで共有してほしいと思いました。
そして、私たち学生がその入口を提供することで、誰でも気軽に参加しやすい環境を作り、この黒いちじくのシュークリームが交流のきっかけとなり、より多くの人々が繋がることを望んでいます。
―「黒いちじくのシュークリーム」商品化の具体的なプロセス(学生が行った活動内容)をお聞かせください。
前田さん:最初に辻󠄀口先生をはじめとする数人の講師の方々に向けてプレゼンテーションを繰り返しました。プロの立場からのシビアな意見やアドバイスを受け、企画内容を何度も練り直しました。多くの試行錯誤を経て、実現可能な計画を作り上げ、プロジェクトの目標と方向性を設定しました。
リサーチを続ける過程で“黒いダイヤ”と呼ばれる希少な黒いちじく「黒蜜姫」を見つけました。黒蜜姫は他の品種とは異なり、糖度が20以上と高く、濃厚な甘さと蜜があふれるほど豊潤であることが魅力です。また柔らかい果肉やねっとりとした舌触りが特徴であり、とても興味が湧きました。さらに自由が丘クリニックのドクターから、黒蜜姫には健康と美容によい成分が豊富に含まれていることを学びました。美容効果が高く、とても甘くて美味しい黒いちじくを使ったスイーツを、ぜひ多くの方々に食べていただきたいという想いのもと、今回の企画が始まりました。
里田さん:黒いちじくの栽培方法や特性についても学び、栽培農家と連絡を取り合いました。さらに、シュークリームの発売に向けてポップやチラシを二人で作成し、販売開始の日には自由が丘で定番の「女神まつり※2024年10月13日・14日開催」に参加してPRしました。イベントでは募金活動を行いながらチラシを配布し、宣伝を行いました。
【自由が丘の街の活性化と能登地震復興支援をどう結びつけるか、テーマ設定に苦戦】
―今回の商品化で特に難しかった点や課題、その困難を乗り越えるために努力した点などお聞かせください。
前田さん:私たちがこの企画で特に難しいと感じた点や課題は2つあります。1つは、希少な黒いちじくを活用し、自由が丘の街の活性化にどのように貢献するのか。そのアイデアを練るために多くの時間を費やしたことです。街を盛り上げるとは何か、自由が丘の街の特性や他の街との違いを深く理解することに努めました。当初は商品開発に重点を置く案や、自由が丘ではなく石川県の復興支援を主軸にする案などいろいろ考えましたが、なかなかテーマが定まりませんでした。しかし、希少性の高い黒いちじくのスイーツを目がけて、辻󠄀口先生のお店に多くの人が訪れることが、結果として自由が丘の街に人を呼び込むことに繋がるため、今回の企画に決定しました。
里田さん:2つ目は、どのような場をコミュニティの場とし、どのようにして顧客のニーズを満たすか、企画本来の目的を達成するために何ができるのか。その方向性を考えることも難題でした。この難題を抱えていた時期が大学の夏休みだったこともあり、メンバーや講師陣に会えず、電話やメッセージでのやり取りを通じて企画を進行させました。スイーツプロモーションのことで常に頭がいっぱいになりながら、こまめに連絡を取り合い、多くの時間を費やし、試行錯誤を重ねました。メンバー内でプロジェクトの実現に向けて、何度も眠れない夜を過ごしたことを覚えています。このように多くの困難を乗り越え、プロジェクトを実現させることができ、今は安堵しています。
【消費者目線でのポップデザインやPRツールを作成し、積極的に宣伝】
―石川県ブランドの向上と農業への関心喚起による、黒いちじく農家の課題解決を目指した企画でもありますよね。このプロモーションやPRで工夫した点をお聞かせください。
前田さん:私たちは販売する側ではなく、購入する側の視点からアプローチしました。具体的にはチラシやSNS投稿文を作成する際、見やすい文字や色、美味しそうに見えるデザインに工夫を凝らしました。また女神まつりでの宣伝用ポップも、購入者の目を引くようにデザインしました。
里田さん:女神まつりで黒いちじくのシュークリームを宣伝する際には、今年のゴールデンウィークに開催したスイーツフェスタで、能登半島の魅力を伝えるパネルを活用しました。石川県にはさまざまな魅力があることに触れ、さらに幻の黒いちじくがあるというフレーズを活かした宣伝方法を取り、人々の関心を引き付けました。
またSNSでは、美味しそうな黒いちじくのシュークリームの写真を投稿するだけでなく、動画にして掲載しました。また、このスイーツが完成するまでのストーリーや美容コメントを載せることで、より興味を持ってもらえるよう工夫しました。
【自由が丘スイーツプロモーションを振り返って】
―今回の学びを通して、今感じていることをお聞かせください。
前田さん:スイーツを使ってどのようにプロモーションしていくか、これまで座学で学んできた知識をさまざまな角度から実践することは想像以上に難しかったです。この企画を2人で行うのは非常に大変で、ここまでのいろいろな経験を振り返ると苦しかったことの方が多いかもしれません。だからこそ一層、企画が認められ実現した今は嬉しい気持ちでいっぱいです。
里田さん:講師の方々と一緒に解決策を見つけながら進める過程で、多くのことを学びました。メンバーとはもともと親しい関係性を築いていましたが、さらに友情も深まりました。お互いにサポートし、協力し合うことで、プロジェクトを実現可能なものにすることができました。この経験は私たちにとって非常に貴重なものであり、今後の自分自身の成長に繋がり、社会人生活にも必ず役立つと感じています。
辻󠄀口氏:製菓については知識も技術も一切ない学生ですし、彼女たちが言うように黒いちじくのテーマを決めるまでに相当時間がかかりましたね。希少性の高い黒いちじくに行き着いたものの、その素材がどういう背景で作られているのか、震災における農家さんたちの現状と課題は何か、どうすればその課題を世の中に伝えることができるのか。それらの情報をどういう形で具現化しPRするか、どういうアプローチや告知をすれば商品が売れるか。考慮しながら決断しなければならないポイントが山ほどあるわけで、なかなかハードな経験だったと思います。
【プロジェクトの成果は…売り上げ倍増!で反響は上々】
―それほど苦労して生み出した「黒いちじくのシュークリーム」の売り上げや反響はいかがでしょうか。
辻󠄀口氏:通常のシュークリームの倍以上売れていました。黒いちじくの認知度が高まり、お店としても売り上げ向上に直結しました。平均して1日30個は出ていたと思います。通常のカスタードのシュークリームで15個くらいですから、学生たちの活躍によってもたらされた結果以外の何ものでもないですね。
自由が丘スイーツプロモーションが育む豊かな“人間性”
―辻󠄀口先生は、自由が丘スイーツプロモーションを通して、これまでも学生たちの成長・活躍を見守ってこられました。彼らを見て、改めて感じていらっしゃることをお聞かせください。
辻󠄀口氏:このプログラムの強みは、なんと言っても実際に発表の場があることです。企画書を添削されるだけじゃなく実践型であり、机上の空論ではありません。つまり地域の皆さんに発表して、良くも悪くも結果が出るわけです。リアルの世界を学び、良かった場合も悪かった場合も検証を繰り返すことで、より考える力、行動を起こす力を養うことができます。行動力や発言力が自然と身についていき、シャイだった子たちも自信を持ち、たくましく変化していく姿を目の当たりにしています。成功も失敗も含めた経験を通して、人間としての豊かな表情や感性が磨かれていく場所であることは間違いないですね。
みんなで話し合い、行動に移し、体験するということが他の大学にはない魅力だと思います。街を巻き込み、私のようなパティシエも巻き込んで、一つの事業を作り上げることができるなんて、こんなにワクワクする学びはそうそうないのではないでしょうか。今回は震災というある意味キャッチーなテーマをベースにしたわけですが、これまではスイーツを通した謎解き、チャコールを使った美容スイーツの開発など、企画を一から考えて行動に移していく、“生きた授業”を私自身も楽しませてもらっています。
これからも本学のスイーツプロモーションを通して、自由が丘を発信源に、スイーツのコミュニティをどんどん広げながら次に繋がる事業を、学生たちと一緒に構築していけたらと思っています。
今後の展望
―自由が丘スイーツプロモーションの今後の展望・展開についてお聞かせください。
辻󠄀口氏:私自身は「発酵の町・自由が丘」を発信したいと考えています。具体的には発酵食品を使ったスイーツの開発ですね。発酵食品をスイーツに取り入れることで体にどんな影響を与えるか、美容にはもちろん未病への対策ができないか…発酵スイーツと人間の体との関係性を研究したいと思っています。授業と絡めながら、スイーツフェスタなどイベントでの露出を増やしていき、認知度を高めて全国展開へと広げていくのが目標です。自由が丘から発信して、最終的にはコンビニでも手に入れられるような国民的お菓子、もしくは新しい東京土産となるようなものを目指したいですね。