
SDGs 大学プロジェクト × Osaka Ohtani Univ.
目次
大阪大谷大学の紹介


大阪大谷大学は、大阪府富田林市に位置する私立大学で、昭和41(1966)年に前身である大谷女子大学として開学して以来、一貫して建学の精神「報恩感謝」にもとづく人間教育を重視し、互いのいのちを尊び、感謝の心をもって他者と接することができる人を育み続けてきました。平成18(2006)年には男女共学化に移行のうえ改称し、現在に至ります。
本キャンパスである志学台キャンパス(富田林市)は、近鉄長野線「滝谷不動」駅から約500mの抜群のアクセスを誇っています。
本学は、薬学部(薬学科)、文学部(日本語日本文学科/歴史文化学科)、教育学部(教育学科)、人間社会学部(人間社会学科/心理・福祉学科※2024年4月開設/スポーツ健康学科)を有する総合大学で、「自立」「創造」「共生」の教育理念のもと、教育活動をしています。少人数体制を整えて、教員が学生一人ひとりに寄り添い、対話し、学生の能力を最大限伸ばすよう取り組んでいます。
人間社会学部においては、2024年4月に、対人援助の知識・技術を学ぶことができる心理・福祉学科を新設します。コミュニケーションスキルを身につけ、心理学、社会福祉学の両分野を幅広く学ぶことも、専門知識を深めることも可能になります。また、人間社会学科に新しくデータサイエンスコースと経営コースを設置し、従来の現代社会コースに加え、社会のニーズに応える3コース制をさらにパワーアップし、これまで以上に実社会で幅広く活躍できる人材を育てます。
岡島教授の経歴、研究内容について
― 岡島教授のご経歴や研究内容について教えてください。
私の専門は国際開発学(国際協力論)です。カンボジアをフィールドとし、地方分権政策によって市民と地方自治体、ひいては国家とのあいだの関係がどう変わるのかについて研究してきました。
そのきっかけは、私がオランダの大学院を卒業して、JICA(ジャイカ)のカンボジア事務所で、企画調査員というポジションについたことでした。そこでは、様々な調査を行い、相手国にとって有益な国際協力事業を提案しましたが、その1つが地方分権政策の動向調査でした。
結局、カンボジアでは4年間ほど勤務し、35歳のときに本学の前身となる大谷女子大学に就職しましたが、その後も、王立プノンペン大学の客員研究員などの立場で、カンボジアの地方分権や地方自治体に関する研究を継続してきました。
SDGsに関しては、国際協力の専門家として、SDGsの前の国際目標で、途上国の貧困問題に対応したMDGsと深いかかわりがありましたが、2013年くらいからは、NGO・外務省連携推進委員会委員をつとめていたこともあって、MDGsのあと、つまり、今で言うSDGsにはどのような内容が盛り込まれるべきかという議論にかかわり始めました。2015年9月、第70回の国連総会でSDGsが採択後は、様々なところで講演を行なったり、原稿を書いたりしてきました。
大学教育においてSDGsを取り上げるようになったきっかけ
― 国際協力の専門家がどのようにして大学でSDGsを取り上げることに繋がっていったのでしょうか?
私のゼミ生たちのなかには、国際協力あるいは国際理解教育といった、「国際畑」の道に進む者もいますが、ほとんどの学生たちは、日本国内の地域で働き、生活をしていきます。そのような学生たちに私が伝えられることは何か。学生たちには、外側から日本や地域を見る目をもってほしいと思ってきました。
国際的に議論されている様々な課題が日本ではどのような状況にあるのか、どのような解決策があるのか、国際的にはどこまで改善することが目指されているのか。これらを学生とともに学ぶためには、SDGsは非常に好都合であると感じました。そのため、ゼミでは、SDGsについて、まず基礎的なところから読み始め、そこから、様々な人や団体に聞き取りを行なって、学びを深めるようにしています。
岡島ゼミの活動内容について
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― 岡島教授のゼミでは、SDGsについてより深く学べるということですね。
はい。ゼミでは、2020年から、SDGsをテーマにしたゼミを展開するようにしてきました。
SDGsというと、日本では、例えばコンビニでレジ袋をもらわないなど、個人的かつ環境に関する取り組みに注目が集まっているように思いますが、私たちのゼミでは、このようなアプローチだけで本当に良いのかという視点を持ちながら、学びを広げ、深めるようにしています。
言い換えると、SDGsを契機に、他人事でしかなかった、たとえば、遠い南の海のウミガメの問題を自分事として捉え、自身の行動を変えることは非常に価値のあることです。環境問題は非常に重要です。しかし、SDGsが求めているのは、個人の行動変容だけではなく、個人と他者、地域社会、広くは国際社会とのつながり方を捉えなおすこと、また、環境問題だけではなく、ジェンダーや働き方等を含めてより広範囲で持続可能性について知り、考え、行動することです。
― ゼミでの具体的な活動内容についても教えていただけますか?
さきほど申し上げたように、SDGs採択後、自治体や市民団体、企業、また、最近の改定で学習指導要領に「持続可能な社会の創り手」という言葉が盛り込まれたことから、学校の先生方を対象にした講演に呼ばれることが多いです。
本学のキャンパスがある富田林市は、「SDGs未来都市」の選定も受けておられ、SDGsに熱心な地域ですが、2020年度は、そこの中央公民館から講演依頼があり、すでに市内では複数回SDGs講演をしていることもあって、学生が調べたことを学生に話してもらう機会を設けました。
― 特に力を入れられた活動はありましたか?
2020年度のゼミでは、SDGsのグローバル指標を日本の文脈に合わせてローカル化する取り組みに焦点を当てて文献調査を行い、その結果を学生による講演を通じて地域の住民の方々に還元するということに注力しました。
SDGsには、17の目標、それを具体的にした169のターゲットがありますが、これらの進捗を確認するための231のグローバル指標(※重複を除いた場合)が設定されています。その中には、1日2.15ドルを「国際貧困ライン」とし、それ以下の生活をしている人の数を指標とするというものがあります。
しかし、1日「2.15ドル」と言われても、日本で生活する人にはあまりしっくりとこないのではないでしょうか?そこで、私のゼミでは、SDGsのグローバル指標を日本の文脈に合わせてローカル化するための様々な取り組みを紹介したというわけです。
さきほど、SDGsは、個人と他者、地域社会や国際社会との関係性の再考を求めていると申し上げました。SDGsのグローバル指標のローカル化という取り組みは、こうした「関係性の再考」とも関連しています。地域社会において、市役所はもっとも身近な行政であるはずですが、まだまだ市役所の敷居が高いと感じられている人も少なくありません。地域データやそれに関する知識も、市役所と市民とでは非対称な状況にあります。市民がSDGsのローカル指標の設定や追跡に関わることはこれまでの行政と市民の関係を改善する契機となるのではないでしょうか?
― 翌年となる2021年度はどのような取り組みをされましたか?
2021年度は前年度の調査をさらに深掘りし、北海道から岡山まで、全国の様々な地域で活動しているNPOやNGOに焦点を当て、学生たちが彼らにZoomでインタビューし、その結果を市役所の職員や地域の市民団体に発表する取り組みを行いました。
私はこれまで様々な地域で講演し、SDGsの理解を広める活動をしてきましたが、会場では「これから私たちは何をすればいいのでしょうか?」という質問が必ず出ます。そこで、学生の発表を通じ、日本で実施されている先進的な取り組みについて知っていただくことで、SDGsへの取り組みを促進できるのではないかと考えています。
2022年度には、大学の地元である富田林市のSDGsに関する活動についても調査しました。富田林市が設けている「SDGsパートナーシップ制度」には、独自でSDGsに取り組んでいる様々な民間企業や市民団体が登録しています。ゼミのメンバーがほかの登録団体との交流の場に参加させていただくとともに、まだ登録していない団体に対して学生がこのパートナーシップ制度を紹介する資料を作成する活動も行いました。
― 今年度は、学外の団体と連携した取り組みも展開されているとうかがっています。詳しく教えていただけますか?
今年度は、独立行政法人UR都市機構と富田林市、本学を含む近隣大学が連携し、富田林市内の地域課題の解決に取り組みはじめています。
「ニュータウン」というのは、高度経済成長期の都市における住宅需要に応えるために開発されたまちで、全国に3000近くあると言われています。そして、それらの「ニュータウン」では、住民の高齢化や、そこで育った若い世代の地元離れによって人口減少が進み、SDGsで言えば、ゴール11の「住み続けられるまちづくりを」、ターゲット11.2の「道路の安全性改善、とくに公共交通の拡大を通じた、安価でアクセス可能、持続可能な輸送システムをすべての人に」という目標に関する諸課題に直面しています。このほか、買い物難民問題、さらにエレベーターのない団地では上層階での空き家の増加、孤独死など、様々な課題が連鎖し、山積しています。
富田林市には、URが開発した、大阪府内最大規模のニュータウン「金剛団地」があります。大学の近くに位置していることもあり、この地域の活性化にどのような貢献ができるかを学生とともに検討を進めていくうちに、河内長野市の南花台にあるニュータウンでは、すでに地域活性化に向けた取り組みをされていることを知りました。
そこで、まず前期にはニュータウンの問題や各地の取り組みについて文献調査を実施しました。後期には、学生と金剛地区の住民が一緒に南花台へ行き、実際の取り組みを見学するスタディツアーを計画しています。
― 今後の取り組みについて、他にも何か計画はありますか?
今は、今期中に控えている見学ツアーの準備を進めていますね。
政府が策定した「SDGs実施指針」にも記載されていますが、SDGsに取り組むうえでは住民がそのプロセスに参加することが重要です。そのため、先ほど述べたスタディツアーも、大学教員や学生が勝手に計画して住民に押し付けるのではなく、住民の方々が参画し、一緒に作り上げていくことが重要です。そのため、金剛地区の住民の方々が何に関心をもっておられるのか、学生に住民の方々を対象とした説明会を開催してもらったり、そこに来られない方々に聞き取りをしてもらったりしています。これは学生にとっても貴重な学びの機会になっていると思います。
このほか、私は、学部の同僚2名と「課題発見解決演習(地域コミュニティ編)」という科目も担当しています。今年は金剛地区にある大きな公園で行う催しを学生に考案してもらい、市の職員や市民団体、学生、教員が投票し、最優秀賞を選びました。そして、9月23日、その催しを実際に学生たちと実施しました。
さらに、昨年、本学では、地域連携センターが設立されました。今年はその開設記念講演会が予定されており、そこでもニュータウン問題について取り上げる予定です。地域の方々、本学の教職員や学生たちには、講演を通じて、ニュータウン問題やそれに関する取組に関する知識を深めていただけるよう、準備を進めています。
学習を通じた学生の変化について

― 岡島ゼミでの学習を通じて学生の価値観は変化しているのではないでしょうか?
学生たちの「学ぶ」目的に大きな変化があったと思います。
現代はとにかく変化が激しく速いですよね。そのような変化のなかで、私たちは大学卒業後も学び続けなければいけません。そのような時代において、多くの学生にとって最後の学校教育の機会となる大学で何をすべきかと言うと、「学ぶ」ことを「学ぶ」、あるいは「学び」を「学びなおす」ことではないでしょうか。
たとえば、学ぶ目的について学生に尋ねると、「勉強しないとろくな人にならないと親に言われたから」「就職するため」など、多くは自分に関する回答が返ってきます。
しかし、本当に自分のためだけに学ぶのでしょうか?
試験で得点をとることも就職のために勉強することも大切ですが、それだけではなく、学ぶ目的を考えるときにはもう少し社会に向かって扉を開いてほしいと思うのです。
例えば、教員採用試験で「なぜ学校の先生になりたいのですか?」という質問に対し「学校の先生になって成長したいです」と答える人は採用されません。そこは「子どもたちの成長を助けたいです」と答えないといけないでしょう。「学び」を考えるときも同様に、自己の成長だけでなく、自分プラスアルファが欲しいのです。
実際に地域の方々と交流するなかで、文献で読んだ社会課題の深刻さを理解したり、自分たちも将来同じ課題を抱えるかもしれないという可能性を考えたり、そのような経験を通じて社会課題との距離が縮まることで、自己中心的な学びから、他者や社会の役にも立つ学びへと、学ぶ目的が変わってきたと感じています。
― 学ぶ目的が変わったことで、ほかにも何か変わりましたか?
学ぶ方法の多様化も進んでいると思います。一般的に「勉強する」と言うと、読書や暗記を想像されるかもしれません。たしかにどちらも大切ですが、それだけでは世の中には通用しません。
社会に向けて学びの扉を開いて考えてみれば、現地に足を運び、自分の目で見て、人に尋ね、耳で聴く、学ぶ方法が多様にあること、その多様な学び方をバランスよく向上させていくことが大切です。また、プレゼンテーションなどのアウトプットを意識したインプットは、学びの質を向上させる手段の一つであると、実感をもって知ってほしいとも思っています。私のゼミの学生たちは、一定程度、このような学び方を実践できているように感じますね。
「自分プラスアルファ」のために学ぶ
― 現代ではネガティブな情報が先行し、お金やキャリアの面で将来を心配する人が増えている印象があります。そのため、自分に矢印が向いてしまいがちではないでしょうか。
そんな中でも、自分プラスアルファの視点を持つための考え方をもう少し詳しく教えていただけますか?
まずお話ししたいことは、「自分プラスアルファ」は自分自身の将来設計を無視するものではないということです。
例えば、資格取得のために勉強することは非常に重要です。その過程が、学習における自身の得意・不得意、いわゆる「学習者特性」に気がつく良い機会にもなるでしょう。そして、自身の学習者特性を知りながら目標に向かって学習習慣を築き、資格を取得し、それを活かして就職するというような学習はとても大切です。しかし「プラスアルファ」があると、もっと学びへのモチベーションがあがり、学習がより持続しやすくなるのではないでしょうか?
今後の学生に期待していること
― 今後、学生たちに期待されていることはありますか?
本学の建学の精神は「報恩感謝」です。この「報恩感謝」とは、すべての「いのち」がつながり支え合っている、そして、その「いのち」1つひとつがその尊厳や輝きをもって存在し成長していくことを大事にする考えです。
あらためて考えると、この「報恩感謝」という思想は、人権や人間の尊厳、多様性を尊重するという、SDGsの前提となっている価値と多くを共有するものであると思います。
繰り返しになってしまいますが、学生たちに期待していることは、小学校から高等学校までの学びをふりかえり、そこで築き上げてきた、学ぶ目的や方法に関する自分の考えをもう一度検証するということです。そして、そこから、人々が支え合う、人間と自然が支え合う、そして、地球に生きるすべての「いのち」がそれぞれの尊厳を保つことができる社会の実現に向かうような「学び」につなげてほしいと期待しています。