SDGs 大学プロジェクト × Kansai Gaidai Univ.

関西外国語大学の紹介

関西外国語大学は、学生数1万2千人規模を誇る全国屈指の外国語大学。世界55カ国・地域395大学と協定を結び、年間約2,500人規模の留学派遣・受け入れを行い、学内外での様々な充実した国際交流プログラムを展開している。

「語学+SDGs留学」プログラム開発の経緯

語学留学の抱える課題

新型コロナウイルスの流行前から、本学は従来の語学留学について、「語学+α」を取り入れる方向で構想を練っていました。新型コロナウイルスの流行により、本学が約70年にわたって続けてきた国際交流が一時中断せざるを得なくなったことで、留学における新たなアプローチを模索する必要性に迫られ、このプログラムの構想が加速的に推し進められました。

今回のプログラムの開発にあたり、きっかけとなったのは、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授らの論文「THE FUTURE OF SKILLS:EMPLOYMENT IN 2030」でした。

この論文は、2030年に必要とされるスキルについて書かれており、オズボーン教授によれば、上位10位のスキルのほとんどは高度な思考力を必要とするものであり、第1位に位置するのは戦略的な学習です。語学も、英語は21位、外国語は44位と、他の多くのスキルと比較して高い位置にはありますが、この論文から推察すると今後は物事を考える力がより一層重要視されるといえます。

また、語学力については、AIやビッグデータの普及に伴い、語学スキルの一部は代替される可能性が高く、従来のように語学だけを学ぶことの有効性が薄れていくことが懸念されます。語学スキルをより効果的に活用するためには、語学力を高めると同時にそれを適切に活かす判断力、問題解決力、そして深い思考力が不可欠であるとの認識に至りました。このような視点から、私たちは新しい語学留学プログラムの構築を進めました。

SDGsを取り入れた留学プログラムのアイデア

では、語学スキルを実際に活かすための判断力や物事を考える力を養うために何をどう学ぶべきか、と考えた時にたどり着いたのがSDGsの取り組みでした。近年、SDGsへの関心は非常に高まってきていますし、特に大阪では2025年に開催される万博に関連して、SDGsに対する関心がより一層高まっています。

SDGsは、”社会における答えが無い課題に対して、さまざまな人々が考え、解決策を見つけるために協力するもの”だと考えております。考え方としては、デザイン思考に基づいており、答えのない状況においても異なる視点から意見を出し合い、アイデアを共有し、共働的な思考を持ちながら課題に取り組む必要があります。こうした思考を持ってPDCAサイクルを回していくプロセスは、物事を考える能力を高める上で非常に効果的だと言えます。

また、語学学修においては、特定のテーマに基づいた英語の記事や文献を読み、議論を進めるコンテンツベースの学修法が主流になっています。こうした背景から、学生たちにより意義のある学びを提供するために、語学留学にあえてSDGsというテーマを設定したのが「語学+SDGs留学」です。渡航前にテーマに関する知識を習得しておくことで、現地でより高度なレベルで学ぶことができるというメリットがあります。

このプログラムは新型コロナウイルスの影響もあって、オンライン留学という形でスタートし、様々な協定校からの協力を得てプログラムを充実させてきました。そして、この秋からはクイーンズランド工科大学への派遣を伴ったプログラムへと展開することができました。

「語学+SDGs留学」プログラムの内容

この章では「語学+SDGs留学」プログラムの内容について、新たに取り入れた評価指標なども交えて具体的にお伺いしました。

グループワークやフィールドワークを通して能動的に学ぶ

「語学+SDGs留学」プログラムでは、語学学習に加えて、デザイン思考と批判的思考(クリティカルシンキング)をグループワークの過程に組み入れています。今回協働したクイーンズランド工科大学では、本科の教育課程において、デザイン思考と批判的思考の両方のレクチャーコースが実施されていたので、講義を留学に取り入れることで面白い効果が生まれるのではないかと考えました。

また、実践的な経験を積むことを重視しているため、授業だけでなく、フィールドワークやグループワークを通じて、学生たちがプラクティカルに学び、問題解決能力を養う機会を提供しています。

具体的には、午前中はSDGsをテーマにした英語の学習を行い、午後からはデザイン思考や批判的思考(クリティカルシンキング)を導入します。さらに、最終プログラムのプレゼンテーションに向けたアセスメント、現地の市役所見学やテーマパークに行って持続可能な社会や観光について考えるフィールドワークなども実施します。

GPS-Academicを用いた評価

このプログラムの特徴のひとつとして、GPS-Academic(GPS-アカデミック)を用いた評価があります。

一般的に留学の成果は、数値化し、客観的に評価することが難しいと言われています。英語のスコアは数値で示すことができますが、思考力や本人の成長は、単純な数値で捉えにくいものです。

しかし、このプログラムの目的は「考える力を伸ばす」ことです。そのため、本学では思考力や学生の成長を数値化して検証するために株式会社ベネッセ i-キャリアが提供するGPS-Academicを導入しました。

GPS-Academicは、大学入試などで幅広く活用され、本学でも留学経験者の思考力を評価するのに役立つツールとして注目しています。このツールは、「批判的思考力」「協働的思考力」「創造的思考力」といった3つの思考観点を評価することができるので、出発前と帰国後にGPS-Academicを受験してもらうことで、これまで数値化が難しかった留学成果を数値化し、客観的に自身の成長を評価できるようにしました。

「語学+SDGs留学」プログラムが学生へもたらすもの

関西外国語大学で生まれた「語学+SDGs留学」プログラムですが、このプログラムにはどんな学生が参加しているのでしょうか。

国際交流部のご担当者様が学生に期待している成長も含めて、学生に焦点を当ててお話を伺いました。

参加している学生の特徴

このプログラムは、現地での関連機関の視察やレクチャーコースを理解する必要があるため、学部2年生~4年生で、CEFRB2(英検準1級~1級)レベルの英語能力を持つ学生を対象としています。

また、中には留学に向けて準備を進める中で、目的を見失い立ち止まってしまう学生もいます。こうした迷いを持っている学生にも「このプログラムにはこういう目的があるから参加してみませんか」と声をかけて参加してもらっています。

目的意識を持つことの大切さ

留学を単なる旅行ではなく、意義ある経験とするためには、明確な目的意識が欠かせません。留学の目的や意義を明確にし、目標を設定することは極めて重要です。
物事を考える上で、なぜそれを行うべきなのかといった目的や理由を明確に把握することは批判的思考(クリティカルシンキング)の基本だと考えます。

前提となる情報を把握し、本当にこれでいいのかと考える段階を省いてしまうと、実際に行動したときに無駄な時間を過ごすことになったり、余計に問題を深刻化させてしまったりする事にもなりかねません。ですので、現在の状況が適切であるかどうかを常に問い直し、目的意識を持って問題解決に向けて着実に取り組む姿勢が大切です。

今回プログラムに参加している学生たちは思考力の向上を強く望んでいる学生が多いので、各々目的意識を持って日本人のみのクラスでも英語でのコミュニケーションを徹底し、お互いを高め合っていると聞いています。

学生に期待している成長

何よりも「考える力」を養ってほしいと思います。問題や課題に対して、どのようにアプローチすべきかを考え、実践できる人材として成長してほしいです。

将来のキャリアにおいては、状況を正確に分析し、その後のステップや目標を明確に考える必要があります。この思考プロセスをデザイン思考や批判的思考(クリティカルシンキング)を通じて習得することは、就職活動に取り組む際にも非常に役立つと信じています。また、自身のキャリア構築に向けたステップをどのように進めるべきかを考える助けにもなると思います。

したがって、この留学プログラムが、学生たちが物事の考え方や組み立て方を習得し、自己成長を遂げる手助けとなることができればと願っています。

今後の展望

今回のクイーンズランド工科大学のプログラムは「本学学生のみを対象としたプログラム」でしたが、今後は英語学習を目的として他国から訪れる学生たちにも参加の機会を提供し、異なるバックグラウンドを持つ学生たちがSDGsの課題について協力し、議論する場を築いていければと考えています。異なる文化や視点からの交流を通じて、より効果的な成果を上げることができるでしょう。

また、少子化が進行し、労働力の確保が課題となる昨今の日本において、将来の日本社会を維持し、発展させるためにも外国人労働者の重要性は一段と増しています。グローバル化が進む社会においては、国際的な視点を持ち、異なる国や文化を持つ人々との交流や議論を通じて、協力して成功の道筋を見出すことが非常に重要です。こういった取り組みは、本学の学生だけではなく、日本全体で取り組むことができれば素晴らしいなと思っています。

高校生へのメッセージ

これからの社会を生き抜くためには、語学力ももちろん大切ですが、最終的に「物を考える力」が非常に重要だと考えています。

世の中が便利になるにつれてAIやビッグデータなど、さまざまな技術が登場してきます。こうしたツールの存在は私たちの暮らしを便利にしてくれることは確かですが、高いレベルで取り扱うにはやはり使い手である私たちの「物を考える力」が必要になります。

また、現実の社会には、解決できない課題や答えの出せない問題が山積みです。そのため、皆さんには「間違ってもいい」ということを覚えておいてほしいと思います。

いきなり正解を出すのは難しいかもしれません。けれども何か間違った場合は、軌道修正をすれば良いですし、答えを出すために考えたことを実践してみて、それを振り返り、改善していくというPDCAサイクルを回すことで、より良い結果に導くことができるはずです。また、PDCAを回す過程での考察や行動は、物を考える力を養うこともできます。

海外の教育では加点方式の考え方が一般的です。積極的に挑戦し、多くの失敗を通じて学び、加点方式で考える習慣を身につけていきましょう。

未来への成功への第一歩は、失敗を受け入れ、積極的な挑戦を恐れないことです。この思考法が、皆さんの人生において大きな武器になることでしょう。