SDGs 大学プロジェクト × Osaka Shoin Women’s Univ.

大阪樟蔭女子大学の紹介

大阪樟蔭女子大学は、1926年に設立された樟蔭女子専門学校を前身とし、戦後の学制改革により1949年に女子大学として開設されました。以来、時代の変化に対応しうる「高い知性と豊かな情操を兼ね備えた女性の育成」を目指して、女子教育に邁進してまいりました。

今後も社会の期待に応える大学であり続けるため、2017年に「美を通して社会に貢献する」大学として〝グランドデザイン2030 「美 Beautiful」” を発表しました。ここで示す「美」は,単に外見などの表面的な「美」を指すのではなく、知性・情操・品性の3つの側面における「美」を指しており、内面から醸し出されるような美しさ、教養に裏付けられ洗練された「美」を意図するものです。本学が推進する「美を高める学び」は、自分自身のあり方や考えをしっかり持ち、状況に応じて判断し行動するための価値軸に繋がる学びです。

「自律的な生き方ができる人」「『知恵』を身につけた人」「人間関係の要となる人」を育成するため、歴史と伝統を礎に、これからも“樟蔭”ならではの教育を展開してまいります。

SDGsに取り組んだきっかけ

–SDGsを意識されるようになったきっかけは?

本学は2019年に創立70周年を迎え、グランドデザイン「美 Beautiful」を策定し、本学での学びを通して社会的な課題を解決しようという方向性を示しました。美の本質は人間の内面から醸し出されるものにあり、それぞれが自分を大切に生きることに通じるものと捉えており、それを学生たちと共に作り出していきたいと考えております。

そういった生き方を形にする学びのひとつとして、本学では学生たちに向けてくすのき地域協創センターで地域貢献プロジェクトを展開しています。くすのき地域協創センターとは、教育・研究・地域連携の3テーマを柱にし、地域との連携による学生の実践活動を進めることで地域の課題解決を図ることを目的とした、2015年に設立された組織です。

学生たちの活動をより意義のあるものにするため、SDGsのコンセプトを取り入れる見直しを行いました。SDGsのターゲットに沿って活動内容を確認することで、社会的課題がどういうところにあるのかより意識しやすくなり、お互いの活動内容に対する理解も深まりました。それまでプロジェクトに関心を持たなかった学生たちにもアピールすることが可能になったのです。また、社会に向けてのメッセージを明確にすることもできるようになったと考えています。

本学はいろいろな角度からSDGsにしっかり取り組める教育環境を整えるため、SDGs関連科目を集約し、副専攻を設けました。地元である大阪で2025年に開催される万博は、SDGsを2030年までに達成するためのプラットフォームになります。本学としても、万博に向けて何かつながりのある行動を実践できればと考え、新型コロナウイルスへの対応が落ちつき出した2021年から、本格的に取り組みを開始しました。

SDGs施策の内容

この章では、学生の自主性と多彩な学びから実現する社会貢献に触れていきます。

学生が自ら動く、SDGs

–学生や社会に対するメッセージとして、SDGsを意識されるようになったのですね。SDGsをコンセプトに組み込むことで、学生側のリアクションや行動に変容はありましたか?

そうですね、SDGsの目標はあまりに範囲が広いので、一体どこから取り組めばいいのか、という戸惑いはあったと思います。そこでまず、いくつかの企業にお願いしてどのような姿勢で何に取り組んでいるのかお話を聞かせて頂き、SDGsに向けた活動へのイメージを固めました。

その結果のひとつとして、学内のプラスチックごみを削減するためのマイボトルキャンペーンに向けた活動が始まりました。キャンペーンを推進するため、現在、学内で給水器を設置するかどうかというアンケートを実施しています。いかにマイボトルを持ってもらえるか、という工夫を学生たちが自主的に考え、実践していくことで給水器を付けてほしいという意見が圧倒的に大きくなっています。

このプロジェクトは元々、エコキャップや同じポリプロピレンでできているコンタクトレンズのケースを回収する活動をしており、ポスターを作って掲示したり、学内で説明会を開催しました。一人一人が地球環境のためにできることが身近にあるということを示す、いいきっかけになりました。

–素晴らしい取り組みですね。こういったプロジェクトの主体は学生なのですか?

はい、学生たちです。「ecoプロ」という名前で活動しています。毎年学年が変わるとメンバー数が減ってしまうので、現在新たに募集をしています。活動内容をポスターに掲示していると、それを見た1年生が「私もやってみたい」と声をかけてくれることもあります。

多彩な学びの可能性と美容から生まれる社会貢献活動

–こういった活動について、大阪樟蔭女子大学ならではの特色を教えてください。

本学には3つの学部と7つの学科があります。学芸学部は5学科、児童教育学部と健康栄養学部1学部1学科構成になっています。後者2つは、子どもの教育者や保育士あるいは管理栄養士を目指すという、目標がはっきりしている学部です。

一方、学芸学部には5学科ありますので、学びの内容がかなり異なっていますが、学科同士の垣根が低く、お互いの学科の単位を取得できる科目もあります。例えば心理学科を専攻しながら化粧・ファッション学科で衣服の歴史を学ぶことができます。柔軟に学びを深めることで、それぞれの学びを進路の決定や社会的課題の解決に生かすことが可能になります。

学芸学部の中には化粧・ファッション学科という非常にユニークな学科があります。元は被服学科でしたが、今ではメイクやネイルなどの領域に学びが広がり、4年制の大学には珍しい、美容師の資格が取れる美容コースがあります。4年間かけて美容師の資格を取得するので、単に技術だけを身に着けるのではなく、周辺の領域の学びも重要視しており、学内でヘアドネーションの活動を行っている美容コースの学生もいます。

教職員と学生に協力者を募り、美容の技術を学んだ学生たちが、ドネーションカットを行って活動団体にカットした髪をお送りしています。また、ヘアドネーションという活動にどのような意義があるのかという啓蒙活動も行っています。単にウィッグを作る目的に留まらず、髪のない方が肩身の狭い思いをしなくて済む社会を作りたいということで、当事者団体との交流会を開催し、どういった日常をどのようなお気持ちで送っておられるのかをお聞かせいただきました。

その体験を通して、学生たちがオープンキャンパスでウィッグの試着体験を実施しています。ウィッグを着用することがファッションという意味合いだけではなくいろいろな用途があること、そして使ったときの感触を皆さんに知っていただくことを通してヘアドネーションの意義をもう一度見つめ直すというキャンペーンです。

現在、学内にボックスが設置されており、ウィッグの寄付を募っています。ウィッグは綺麗に洗って来校者の方たちに試着してもらいます。このようにして、美容から派生するいろいろな社会的課題について、関心を持って取り組んでいます。

女性の自己実現と社会進出の支援

–美を扱う大学ならではの発想ですね。大学としての取り組みにおいて、先生が特に注目しているものはありますか?

何かひとつの活動について、というよりは「今なぜ女子大学なのか」ということがとても重要な問題のように思います。昨今、女子大学が募集を停止するとか、共学と合併するといったニュースがたくさん流れ、「女子大学はもう終わりじゃないか」という声もあるかと思います。けれども、私は今こそ女子大学なのだと申し上げたく思います。

先日の世界経済フォーラムにおいて、日本のジェンダーギャップが過去最低で125位であったということが大きく報道されました。その125位の社会を女性として生きていく、あるいはそこで自己実現をするというのはとても大変な課題だと思います。その荒波にいきなり乗り出す前に、男性と直接競い合ったり、男性に頼らざるをえないという発想と一旦距離を置いて、自分たちでできることを工夫していく社会で自分自身を見つめ直す場が女子大学なのです。一人の女性として、男女共同社会を生き抜くために、自分を磨き、力をつける4年間を送ることは非常に大事だと思います。

本学は人と競合する偏差値教育ではなく、自分は何ができるかということをしっかり考え、そして自分が何がしたいのか、何に向いているのかということを4年間で見つめてほしいと考えています。

本学には中学や高校であまり学校に行かなかった学生、それから単位制の高校を卒業した学生もいますので、入学後すぐに大勢の人たちの中に入ることにとても苦手意識を持っている学生もいます。そういった学生たちに、本学の中で居場所を見つけてもらいたい、あるいはひととのつながりを持てる力をつけてもらいたい。それが、学生たちが社会に出ていく前に、我々が学生たちにするべき重要な教育ではないかと思っています。

本学で学び以外の活動や体験を通して、「女性であることは損だ」あるいは「負担になる」ということを感じずに過ごして自分の立ち位置を掴んでほしいです。

そのために、ささやかではありますが、アプリを使って生理用品を無料で取り出せる「OiTr(オイテル)」を学内の各トイレに一つずつ設置しました。まだ成長途上の女性の身体は不安定なので、突然生理が来ることもあります。本当は保健室に用意がありますが、そこまでなかなか辿り着けなかったり、言うのが恥ずかしいという学生もいます。そういったときに自分できちんと対処でき、安心して授業を受けられるような環境を整えています。

具体的な施策について

–すごく大きな取り組みだと思います。細かな気遣いは大学生活を豊かなものにする第一歩であると思います。こういった様々な取り組みがある中で、学生たちの具体的な活動についてお伺いできますか?

学生たちは先述したくすのき地域協創センターのプロジェクトに自ら参加したり、地域からの要請に応える形で活動をしています。例えば東大阪市のHANAZONO EXPOでは、大学生協の学生委員が市内の他大学とコラボし、SDGsの取り組みに関するアイディアを創出して発表しました。

そして、今年度は市内の障害児者総合福祉施設と化粧・ファッション学科の学生たちが利用者さんたちと一緒にヘアメイクショーをしようと計画しています。利用者の方たちが描いた絵をもとにした布をまとい、学生たちがヘアメイクを施した利用者さんたちがモデルとして出演されます。当日に慣れない格好で利用者さんたちが戸惑われないよう、週1回施設に通い、ネイルをしたり、メイクをして関係を深め、徐々に慣れてもらっているところです。

また、東大阪のある駅前の喫煙状況が非常に良くないという地域からの要請があり、東大阪市からの依頼で本学で禁煙教育を専門にしている教員が地域とコラボし、大学院生やゼミの学生も手伝って駅前の喫煙状況を調査の上、対応策について提案をしました。

このように、それぞれの教員の専門領域で社会的要請のあった課題についても、学生たちと共に取り組んでいます。高齢者のフレイル対策を専門にしている教員も在籍していますので、ゼミの学生たちは東大阪市内の高齢者施設にお声がけして一緒に散歩をしたり、フレイル体操をしたり、様々な予防・啓発活動を展開しています。

–それぞれの先生の知見を活かした地域貢献活動をされているのですね。先生は樟蔭美科学研究所のセンター長も務めておられますが、こちらの活動もSDGsに紐づいているのですか?

はい、樟蔭美科学研究所は本学の「美を通して社会に貢献する」というコンセプトを研究の領域から支えています。美は抽象的なものですので、いかに私たちの身近な美が具現化されたものとつないでいくかということを重要視しています。

例えば、ハリウッドで特殊メイクをされている本学客員教授の江川悦子先生にお越しいただいて、実際に特殊メイクをしていただきながら、「化粧と心」というテーマで心理学科の教員と対談をしたり、美をコンセプトに「異なる領域の学びを繋ぐ」というテーマで、一般市民向けのセミナーを年に2回程開催しています。一方で、化粧品領域の専門教員もおりますので、専門家向けのセミナーも開講しており、海外からもたくさんの方にご参加いただいています。

また、本学のHPには化粧ファッション学科准教授の髙木大輔による就活用メイクの動画も掲載しています。美は決して女性だけのものではないという考えから、男性向けの就活メイクのお作法も作成して掲載しました。

充実したサポート体制

–異なる美のコラボ、素敵ですね。こういった学業以外の取り組みにおける学生の立ち位置や役割とはどのようなものですか?

取り組みにおいては学生が主役なのですが、「どうぞ主役をしてください」と急にいっても学生の側の戸惑いがありますし、実際に社会的なスキルを身に着けていなければ、なかなか思ったことを実現できないという現実に直面します。

そのため各プロジェクトに一人ずつ、プロジェクトアドバイザーとして教員がついています。くすのき地域協創センターのスタッフのサポートも受けて、活動の段取りや社会的な常識・マナーなどを学びます。教職員は手を添える、という役割ですが、学生たちがあまり大きな失敗をしてやる気を失ってしまわないように、適度な距離を保ちながら進めています。

また、学生同士の励まし合いが大きな力になっているようです。お互いを補い合ったり、許容しあったり、といった体験も非常に大事だと思います。そういった経験を通して、卒業までに成長できたと実感する学生もたくさんいます。

–自主的に挑戦する学生や、社会問題に意欲的に取り組む学生を育てるのは非常に難しいと思うのですが、そのような学生を増やすために、先生方はどのような意識を持たれているのですか?

私からすると、「何かしたい!」と思っている学生は非常に多い印象です。

しかし、新型コロナウイルスの蔓延でほとんど何もできなかった学生もいたことも事実です。今は、何かしたいと思う気持ちはあるけれども、どこから手をつけていいかわからないという学生が大半といっても過言ではありません。そういった、何かしたいと思っている学生をいかに発掘していくかが重要だと思います。

講義もほぼ対面で行えるようになってきていますので、学生がキャンパスに出てくる機会も増えました。しかし、新型コロナの影響で、まだ友人関係を築けていない学生も一定数います。ですから、今秋からは、コミュニケーションに苦手意識のある学生にも安心して来てもらえる場所を学生ラウンジに学生相談室の相談員の協力を得て定期的に作るつもりです。

実際に来てもらえれば、それぞれの学生が何を考えているのかを大学の運営に携わる私たちが把握することもできますし、結果として、学生のニーズを適切なところに結びつけるきっかけになると思います。「全体に呼びかける」というより、「一人一人に呼びかける」方が、ニーズを拾って次に繋げていけるのではないかと考えています。

–素晴らしい試みだと思います。大学生活を通して、学生たちに変化はありましたか?

卒業していく学生たちに、毎年アンケートを取っています。「大学生活の中で自分は成長できたと思うか」という質問に、9割近くの学生が「成長したと思う」と回答してくれます。それはとても嬉しいことです。

学生一人一人にとっては小さいことかもしれませんが、「たしかに自分は変わった」と実感して卒業するというのは、これから新しいことにチャレンジしていく力になるのではないでしょうか。

自分が何を身に着けたかということについて、もっと明確に人に伝えられるようになれれば、さらに学生たちも強くなれると思います。そういったことを確認できる場を作っていくことが、我々の役目です。

今後の展望

–学生が自分のことを受け入れられるようになり、自分の成長を実感できることは、学生にとって最大の財産となると思います。今後の施策、展望についてお聞かせ願えますか?

先述のプロジェクトとは別に、共創チャレンジという万博にむけたプロジェクトがあり、SDGirlsという名前を付けて活動しています。門真市や天王寺動物園など、学外に出向いていろいろユニークな活動をしています。万博が開催されるまで、プロジェクトとして活動を続けていく予定です。

今後は今あるプロジェクトをより意義のあるものにし、次の世代の学生たちに繋いでいくということも重要です。そこから得られる学びは、机上で学ぶことに代えがたいものがあり、私たち教員も学生たちの成長する姿を毎回出会うことができます。

実は、それは就職にも繋がっていて、プロジェクトに参加した学生たちは希望の就職先に決まる割合がとても高いです。自分の実績をたくさんアピールできますし、企業の方もSDGsに関心が高いこともあり、とても良い反応を得られた学生も少なくありません。最初は就活目的で活動を始めることでも良いと、私は思っています。自分のためにやり始めたことでも、やってるうちに面白くなって夢中になって活動する学生たちを何度も目にしました。最初は自分のためでいい。何かを通して成長したい人は、是非本学に来てほしいです。

高校生へのメッセージ

–これから貴学への受験を希望する高校生の方にメッセージをお願いします。

本学は100年を超える女子教育に邁進してきた大学です。大学としては70年を少し過ぎたところですけれども、最近批判を浴びる「女性ならでは」という表現をある意味ではずっと大切にしてきました。「女性ならでは」という言葉を本学で使う際は、教育の対象を女性だけに限っているとはいえ、女性のことだけを考えている訳ではありません。大切な人々と共に暮らしていく社会について、じっくり同性同士で考え、そこからの広がりを期待するのが女子教育というものだと私は考えています。

女性ばかりだといじめがあるのではないかと不安に思う方もおられますが、本学は非常にほんわか、のんびりとした雰囲気です。良い友人関係、あるいは一生の宝物になる人とのつながりはその人を必ず強くします。ぜひ本学でそのような人間関係を体験して、自ら目指す道を自分で進んでいける人になってほしいと思います。