SDGs 大学プロジェクト × Takamatsu University and Junior College. -Part 1-

高松大学・高松短期大学の紹介

学校法人四国高松学園は、高松短期大学を1969年、高松大学を1996年に開学しました。
高松大学には発達科学部子ども発達学科と経営学部経営学科、高松短期大学には保育学科とビジネスデザイン学科、大学院には経営学研究科を設置しています。

建学の精神として掲げているのは、「対話にみちみちたゆたかな人間教育をめざす大学」「自分で考え自分で行なえる人間づくりをめざす大学」「個性をのばしルールが守れる人間づくりをめざす大学」「理論と実践との接点を開拓する大学」です。

2020年8月には、人口減少や情報化・グローバル化の進展等、時代の変化や社会の要請に的確に対応できるように、「Vision2030」を策定。「対話と実践」を重ね、人や地域、世界とのつながりながら、地域の未来を切り拓く方向性を打ち出しました。

地域とのつながりに関しては、大規模災害などに備え、「高松市機能別分団 高松大学防災サポートチーム」を結成。本学の学生によって構成され、避難者の湯堂や指定避難所の運営支援などの活動を行います。また、大規模災害が発生した際は、大学内の施設の一部を一時避難施設として使う予定です。

さらに、香川県内の高等教育機関や産業界、自治体とともに「大学・地域共創プラットフォーム香川」を構成し、オール香川の産官学で「人づくり・地域づくり」に取り組んでいます。

高松短期大学 保育学科の紹介

保育学科の教育研究上の目的は、「保育士及び幼稚園教諭をはじめ、広く子育て支援に資する人材を育成する」ことです。

そのため、地域の子育て支援への参加にも力を入れています。例えば、毎年の大学祭で保育学科は子どもたち(0歳 ~ 5歳)のための遊び広場「ほいくのくに」に取り組んだり、大型児童館さぬきこどもの国では親子遊びの参加型イベント「はぐくみ×カレッジ」を開催したり、讃岐おもちゃ美術館では親子向けのワークショップやパネルシアターのお話会を運営したりしています。

中でも、今回は保育者をめざす若者をサポートするための保育学科独自のプログラム「保育者をめざす高校生のための保育体験ツアー」についてご紹介したいと思います。

「保育者をめざす高校生のための保育体験ツアー」とは

―― 本日は、「保育者をめざす高校生のための保育体験ツアー」(以下、保育体験ツアー)を担当されている高松短期大学保育学科の有馬則子講師と、学生スタッフとして昨年参加されたメンバーの皆さんにお話を伺います。このツアーを開始した狙いを教えてください。

有馬則子講師(以下、有馬講師):私が本学に着任する前から始まっていたプログラムですが、開始したきっかけは高校生が進路を選択するときに起こるミスマッチを防止することにありました。

多くの学生が保育に関心を持って入学するものの、実際の保育の仕事内容や学校生活を経験する中で、「こんなはずではなかった」と感じ、退学や休学を選択するケースが少なからずありました。そのため、保育の職業の厳しさだけでなく、それに勝る楽しさや喜びを高校生に知ってもらうことが重要だと考え、保育現場での体験学習を実施することにしました。

この取り組みにより、将来的に保育者をめざす学生たちが、自分たちの職業選択に対してより深く考え、確信を持って進むことができるようになることを期待しています。

―― 高校生にはどのように周知をしていますか?

有馬講師:まずは高校で行われる進学ガイダンスでパンフレットなどを配布し、本学の保育学科について知ってもらいます。さらに、オープンキャンパスに参加してもらい、保育学科への理解を深めてもらったうえで、保育体験ツアーへの参加を案内しています。

―― 「保育体験ツアー」開始当初の内容をお聞かせください。

有馬講師:最初は、バスを貸し切って多くの参加者とともに保育園を訪れ、1日を通じて保育園児と交流したり、保育教材をつくったりしていたと聞いています。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の流行により、大人数での保育園訪問が困難となりました。

この状況を受けて、どうにか「保育体験ツアー」を開催するために、参加人数を制限し、体験プログラムを見直すこととしました。また、体験の場を、学校法人四国高松学園が運営する認定こども園高松東幼稚園(以下、高松東幼稚園)に変更し、プログラムの時間も半日に短縮しました。

2023年に新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行されたことを受け、体験プログラムの時間を再び1日に延長しました。午前中は高松東幼稚園での保育体験を行い、昼食は保育学科に所属する学生と高校生の交流の時間として、午後はピアノ演奏や絵本の読み聞かせなどの実技を体験する内容に変更しました。各保育体験ツアーには、高校生3 ~ 7名と学生スタッフ2 ~ 3名が参加し、2023年度は8月に計8回の開催を実施しました。

保育体験を一緒に振り返り、保育の奥深さに気づくことの大切さ

―― 参加している学生スタッフは、どのように募っているのでしょうか?

有馬講師:保育学科の学生に「保育体験ツアー」の趣旨を伝え、手伝ってくれるスタッフを募集しました。「保育体験ツアー」の開催は複数の日程に渡っているので、学生スタッフのスケジュールを確認し、1回に3名程度と参加者が偏らないように日程調整をしました。

―― 学生スタッフとして参加した皆さんにも、お話を伺いたいと思います。参加されたきっかけを教えてください。

大山 悠奈さん(以下、大山さん):私は高校時代に「保育体験ツアー」に参加した経験があります。最初は緊張や不安が大きかったものの、学生スタッフをされている先輩たちの姿を見て、憧れました。先輩たちにしてもらったことを、次は私が高校生にしてあげたい。そう思って参加しました。

大本 芽依さん(以下、大本さん):私は高校生の時からずっと保育士になりたいという夢を持っています。同じような夢を持っている高校生と関わってみたい、話してみたいという思いから参加を決めました。

―― 参加された高校生の中には、保育の現場を初めて体験する人もいたと思います。どのようにサポートしましたか?

佐藤 玲花さん(以下、佐藤さん):緊張している高校生がいたため、子どもと交流を深めるためのきっかけ作りとして、おもちゃを渡したり、「この子のお着替えを一緒に手伝おう」と誘ったりしました。意識したのは、高校生ができるだけ多くの子どもと関わることです。最初は緊張していた高校生も、徐々に子どもたちと同じ目線で遊んだり、会話を楽しんだりするようになりました。

大本さん:保育園に行く前、高校生と自己紹介をする機会があります。
その時、相手の緊張が表情から伝わってきたので、緊張をほぐすために保育現場でよく行う手遊びをしました。手遊びは、歌に合わせて一緒に手を動かします。緊張で硬くなっていた体もほぐれ、みんなで行うことで一体感も生まれます。手遊びを通じて、緊張していた高校生が笑顔になってくれたので、手遊びを実施して良かったと感じました。

子どもたちも高校生のお姉さんが大好きで、高松東幼稚園では高校生に抱きつこうとする姿が見受けられました。高校生が子どもたちと触れ合い、その喜びを共有する様子を目にして、保育の重要性を改めて実感しました。この経験は、保育士を目指す初志を思い出させてくれました。

大山さん:高松東幼稚園での保育体験を行った際、私は0歳児と1歳児の両方の教室を担当し、高校生には各教室に分かれて子どもたちと触れ合ってもらうようにしました。

この方法では、私が0歳児のクラスを見ている間に、1歳児のクラスにいる高校生が一人になることになります。初めはそのことについて心配しましたが、意外と高校生は一人になっても頑張って子どもたちと関わろうという姿勢が見られました。私が一時的に教室を離れている間に、高校生が子どもたちのグループに参加している様子を見て、高校生の成長も感じました。

―― 保育の現場で子どもたちと関わる体験を通じ、高校生にはどのような学びが得られたと考えていますか?

有馬講師:子どもたちと接することで、一人ひとり本当に違った個性を持っていると、気づかされます。子どもたちからの問いかけに対し、返答に迷う場面もあり、時には保育の難しさも感じるでしょう。難しさや大変さを実感しながらも、保育の楽しさや嬉しさを知る機会になったと思います。

保育の現場を体験した後、振り返りの時間を用意しています。高校生に感想を聞くと、楽しかった点や難しかった点など、さまざまな意見が出ました。それに対して、学生スタッフや職員が子どもならではの視点や保育者の思いなどを伝えることで、考える機会にもつながっています。

大山さん:私が参加したのは、高校3年生の時でした。既に保育士になることを決意していましたが、実際の現場での体験を通じて、最終的な確認を行うつもりで臨みました。

活動が終了した後、身体は疲れ果てていましたが、心の中には「もっと子どもたちに喜んでもらえる経験を提供したかった」といったさまざまな思いが湧き上がりました。このような気持ちを持てたからこそ、保育士をめざすために進学をしても大丈夫だと思えました。

有馬先生がおっしゃっていた振り返りの時間は、自分にはないプロの視点での話を聞けて有意義でした。私にはまだわからない保育の世界の奥深さを実感しましたね。

入学後の学びの場をイメージできる実技体験

―― 昼食中は、高校生とはどのような話をされましたか?

大本さん:最初は、高校生は緊張してなかなか質問が出ませんでした。そこで、私たちから積極的に高校生に話を振るようにしたところ、徐々に質問が出てきました。

高校生からの質問で多かったのは、学生生活に関するものです。保育学科の学生は保育園に実習に行ったり保育アルバイトに行ったりします。実習の大変さなどを聞かれたので、高校生が不安を感じているとわかりました。そのため、昼食の時間に高校生の質問に答えられてよかったです。

佐藤さん:今回、参加した理由の1つに、高校時代に私が取り組んでよかったことを伝えたいという思いがありました。短大で保育士の免許を取得するには、ピアノの演奏が必要不可欠です。

私がピアノの練習を始めたのは、高校3年生の頃でした。当時、私の学校にはピアノ初心者もいましたので、初心者向けの教本を購入して練習しました。高松短大では、熱心な先生方が学生一人ひとりに寄り添って指導してくださいます。それに加えて、個々のレベルに合わせて楽譜を用意してくれるので、心配はいりません。ただ、高校時代からピアノの練習を続けておくと、より余裕を持って取り組むことができると思い、勧めました。

―― 午後の実技体験の狙いと内容をお聞かせください。

有馬講師:実技体験は、昨年にはじめて開催しました。これまでの参加者へのアンケート結果から、学生生活での不安材料としてピアノ教室や図書館などの施設を利用し、保育学科の教員によるピアノレッスンや絵本の読み聞かせを実施いたしました。高校生は両方参加することもできますし、片方のみ選ぶこともできます。

実際の授業に近い内容にしたのは、高校生が将来保育者として活躍する際に必要となる、学びを具体的にイメージできるようにするためです。高校生だけではなく、学生スタッフにも参加してもらいました。学生スタッフの参加は、ピアノに対する不安や苦手意識を持つ高校生に対し、安心感を提供することを意図しています。

佐藤さん:ピアノレッスンに参加しました。私は、高校3年生からピアノの練習を始めましたが、一定の演奏技術を身につけられたことを伝えるため、高校生の前で「赤とんぼ」を演奏しました。

高校生たちは一人一台のピアノと向き合い、レッスンを通じて演奏していただきました。普段は私が先生方から教わる立場ですが、今回は高校生たちを指導する立場となりました。その経験は初めてであり、高校生に対する指導は一層難しいものでした。多くの生徒が初心者であったため、私は高校生たちの隣に座り、楽譜をなぞったり階名を一緒に言ったりして教えました。

大山さん:私は、ピアノレッスンと絵本の読み聞かせに参加。佐藤さんと同じように、子どもの頃からピアノを習っていなくても、一定の演奏技術が身につくと伝えるために、高校生の前で演奏をしました。絵本の読み聞かせでは、図書館にある絵本を紹介したり、読み聞かせのやり方を教えたりしました。

絵本の読み聞かせを行う時は、子どもたちの年齢に合った絵本を選び、年齢に合わせて読み方も変えます。そうした工夫を伝えるため、実際に高校生と一緒に絵本を読んでみる時間もありました。

これからの時代に求められる「保育者としての+α」にチャレンジできる探究活動

―― 「保育体験ツアー」の様子を伺っていると、入学して4ヶ月しか経っていない学生スタッフが自発的に考え、高校生をフォローしている様子が伝わってきます。学生の皆さんの主体性は、どのようにして育まれたのでしょうか?

有馬講師:2023年度から開始された「探究活動」は、学生の学習活動に大きな影響を与えています。この取り組みにより、学生たちは能動的な学びを実践する機会が増え、授業を週4日に集約することで、毎週水曜日が個々の学生が自己主導で学ぶ時間として割り当てられました。

重要なのは、大学側が単に指示を与えるのではなく、学生自身が課題を見つけ、個人またはグループで取り組むことを奨励している点です。その際、教員は学生たちをサポートし、指導する役割を果たしています。

探究活動の時間を活用する学生たちの活動は多岐にわたります。一部の学生は保育ボランティアや保育アルバイトに参加し、実践的な経験を積む一方で、他の学生は教材の開発や絵本の選定に取り組んでいます。このように、多様な活動を通じて学生たちは自己成長を促し、社会での貢献や専門性の向上に向けた準備を行っています。

大本さん:もし探究活動の時間がなければ、保育ボランティアに行ったり、教材づくりに取り組んだりする余裕はありませんでした。探究活動を通じて、先生からの指導を受けながらパペット人形を作る過程で、教材の重要性を強く認識しました。この経験を元にして、春休み中にはスケッチブックシアターを制作しました。技術や知識を着実に積み重ねながら、新たな教材づくりに挑戦しています。

授業では主に座学で知識を得ていますが、その学びを実践で活かすことが重要だと考えています。そのためには、実際の現場での経験が欠かせません。保育アルバイトを通じて、保育園での実践に積極的に参加し、授業で得た知識やスキルを現場で実践することに努めています。

大山さん:私は、探究活動の一環として、様々な事情で一時保護された子どもたちのための施設を訪れました。これまでの私にとって未知の世界でしたが、実際に足を運び、子どもたちの現状を知ることができました。

佐藤さん:保育アルバイトを通じて、おむつ替えなど、通常では経験できない業務に携わる機会を得ました。さらに、保育者が保護者との対応を行う様子を間近で見ることで、多くのことを学ぶことができました。

―― 探究活動は、学生の皆さんの世界を広げるのに役立っているようですね。

有馬講師:自分の興味がある分野や自分のしたいことに焦点を当て、その分野を深く学び探究することは、とても大事です。「教材とは何か」と疑問を持ったら、工夫しながら自分で教材をつくってみる。授業で学んだことを活かして実際に子どもたちと触れ合ってみる。そうした経験が、学生にとっては前に進む原動力になると思います。

保育の基盤は、子どもの理解から始まります。そのためには、実際に子どもたちと関わり、触れ合い、そして子どものいろいろな姿や言動を見ることが大切です。子どもの姿や言動を見て感じた疑問は、大学の授業が解決の糸口となるでしょう。だから、学生にはどんどん現場に行き、いろいろな経験を積んでほしいですね。

今回の「保育体験ツアー」も、高校生の皆さんにとっては同じだと思います。高校生の皆さんは、最後に「大変な部分もあったけれど、楽しかったです」と笑顔で話していました。この体験を通じて、保育が持つ喜びや魅力が伝わったのではないでしょうか。

「保育体験ツアー」により保育者をめざす若者を育成

―― 「保育体験ツアー」のお話に戻ります。実施による効果はいかがですか?

有馬講師:当初の目的は高校生が進路を選択するときに起こるミスマッチを防ぐことでしたが、現在では「保育者をめざす若者育成」や「若者の県内進学・就職の実現」に貢献しています。アンケートの結果からは、「保育体験ツアー」に参加した高校生の大多数が「保育者になりたい気持ちが強まった」と回答してくれています。そして、実際に入学する学生のうち、3~5割が保育体験ツアーの参加者です。

学生スタッフとして1年生が参加してくれることが多いので、高校生にとっては身近で親しみやすく、自分の入学後の姿を想像しやすい存在なのかもしれません。また、翌年の入学後に2年生の先輩としていてくれることも、高校生にとっては心強いものがあるのではないでしょうか。

保育体験ツアーを通じて、保育者をめざす若者がつながり合うのも素晴らしいことです。

―― 今後の展望をお聞かせください。

有馬講師:昨年度のアンケート調査により、ピアノや絵本の読み聞かせに加えて、実技体験には教材づくりを希望する声もありました。

そこで、今年度の保育体験ツアーの実技体験に「手作りおもちゃづくり」を加える予定です。学生スタッフと一緒に作ることで、不安や難しさよりも、子どもたちの関心や意欲を引き出す面白さや教材研究の大切さ、保育への理解を深めてくれるきっかけにもしていきたいと思います。