核融合実現への進展と日本の技術的優位性:武田秀太郎 准教授が紐解く

フュージョンエネルギーとは何か

――研究されているテーマを教えてください。

私は夢のエネルギーと呼ばれるフュージョンエネルギーを専門としているのですが、「フュージョンエネルギー」が一体何なのかという所からお話しさせてください。
そもそも太陽がなぜ明るく燃えているか、考えたことはありますか?何十億年も持続して燃えるということは、普通の燃え方ではないですよね。

太陽で起こっているこの反応がフュージョン、または核融合と呼ばれる反応で、水素がエネルギーの源になっているんです。このフュージョンエネルギーは究極のクリーンエネルギーとも言われていて、ものすごく小さな燃料の消費で燃え続けることが出来ます
もしこれが地上に再現できれば、とても効率的なエネルギー源になるはずです。自然に起こることがない反応なので、暴走などの事故も起きませんし、いわゆる核のごみ(高レベル放射性廃棄物)も出ません。さらに言えば燃料は海水から作ることができるので、地球上の水が全部石油になるようなものだと言えます。
そうすると、人類の全電力消費を1000万年間賄っても足りるだけの燃料が地球上にあると試算されていますから、これが実現すれば世界のエネルギー問題はこれで解決できるわけです。

実現可能な未来への目途が立ってきた

この夢のエネルギーを実現するため、世界中の科学者が1950年代からずっと研究をしてきました。そうして、最近ようやくあと20年や15年でできる所まで見通しが立ってきたのです。
現在、ITERという大きな実験装置を多くの国の政府の協力によってフランスに建設しているのですが、実際にこうした巨大な実験装置を建設し、そこでこの地上の太陽を作るというプロジェクトが進んでいます。そして今、この地上の太陽実現を目指した開発競争が世界的に非常に激化しており、そこに向かって色々な民間企業も参入しているのです。

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核融合実験炉ITER日本国内機関

国主導から民間参入への新しい流れへ

――それこそ国家として莫大な費用を投じていたにも関わらず、民間に移るという話になったのはどうしてでしょうか?

挑戦的な取り組みを進める民間と、着実な発電炉建設に向けて総力を挙げる各国政府、そのどちらが流れを握っているということはありません。あくまでその2つの潮流は、両輪として互恵関係にあると考えています。
ただ現在の日本政府の発電炉プロジェクトは2050年、もしくは2045年に実現という表現で、それはどれだけ優れたエネルギーであっても遠すぎると民間企業は考えています。

例えばパリ協定にしてもカーボンニュートラル目標にしても、そこから10年20年前倒しをしないとフュージョンエネルギーは社会に対してインパクトのある導入はできません。それを考えた時、もっと早くやる方法を探そうということを考えるのが、スタートアップなんです。だからこそ、スタートアップは需要(デマンド)から「早期にやらなきゃいけない」という熱意を持ち、そこに資金を投じる人間も現れて、いわゆるプレイヤーと支援者が同じ理念に向けて一致をしたことによって多額の予算が流入している状況です。
実際に核融合のスタートアップの数についても、元々数社しかなかったものが2000年に入って増え始め、特にここ10年で右肩上がりに増えて、現在40社以上のスタートアップが世界中でフュージョンエネルギーに取り組んでいます。

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我が国における核融合研究開発の展望

資金の投資も国から民間へ

ここに流入している資金の桁もかなり大きく、2021年単年でおよそ5000億円の投資が集まり、累計投資額では8500億円を超えています。母体を見てもMITなど世界トップの研究機関が並び、投資家の名前を見てもビル・ゲイツやGoogleなど一流の投資家の方々が多額のお金を投資していて、米国では2021年に初めて民間からの投資が政府予算を上回っているんです。

実際に現在稼働中の実験装置数は公的プログラムが90%、民間の企業の装置は10%に過ぎませんが、建設中だと30%が民間、計画中だと60%が民間という現状です。
彼らはほとんどが2035年までにこのエネルギー源が実用化できるという風に考えています。彼らには自分たちが革新的な取り組みをしているという自信と楽観があって、実現スケジュールをすごく前倒ししています。

――この流れはどうしてできてきたのでしょうか?

これまで政府が取り組んできた方式とは違う革新的な方式を民間は採用しようとしていて、本当に誰も考えたことがないような、周りからピストンで一気に物理圧縮したりといった方式を探求しています。

あとは各国の政治的な後押しも大きく、日本もこの4月に初めてフュージョンエネルギーの国家戦略を策定したのですが、自国の産業としてこの核融合を半導体産業や宇宙産業と同じように国全体を活性化させるという意向も生まれてきました。ベンチャー企業のビッグサイエンス領域への進出が始まったという大きな出来事も当然背景としてあると言えるでしょうね。
こういったものが複合して今この業界が盛り上がり、エネルギー業界、電力業界でも大変注目をいただいていています。

スタートアップ、ベンチャー企業としての体制づくり

次に新しい体制をどうしていくのかということを考えた時に、核融合の新しい研究会などが日々立ち上がっていて、目まぐるしく体制の改革が進んでいる段階にあります。私が共同創業した京都フュージョニュアリング社も電力会社や商社からも出資をいただいていて、この国を代表するような企業が投資を入れてくださっているような状況です。

――フュージョンエネルギーに関するベンチャー企業として、京都フュージョニアリング社はどのようなアプローチをされていくのでしょうか?

私たち京都フュージョニアリング社は、フュージョンエネルギーの実現には、サイエンスだけでなく産業の観点が不可欠と考えています。

なぜフュージョンエネルギーが必要なのか、なぜ今こういった注目がされているかを考えた時に、このエネルギーを確実に社会に届けるための周辺技術の研究開発がほどんど取り組まれていないことに私たちは目を付けました。そこで私たちは炉そのものを作るのではなく、炉の周りに必要となる様々な周辺機器を、自らの技術力を生かして開発をし、そして売っていくことに注力したのです。
そうなると、長年工学分野でトップを走ってきた日本の学術界・産業界の強みも活きますし、何より他のスタートアップと競争するわけではないので、汎く様々な企業の支援をする業界のハブとしての貢献も可能になります。フュージョンエネルギー、核融合を産業化として取り組むという意味では、勝ち筋に最も近いビジネスモデルとして取り組めています。

今後日本として核融合を発展させていくには

――日本と外国を比べた時に日本の弱点などはありますか?

正直、日本のスタートアップ投資家の資金力はアメリカと比べて弱すぎますし、また政府の取り組みのスピードにも米英と比べて懸念があります。他の産業と同様に、波に乗り損ねる危機感をどうしても感じてしまいます。

科学技術としてのフュージョンエネルギーはの分野で日本は進んでおり、トップ国の一つだったのですが、それも論文数では中国に負けつつあり、産業化の観点でも目標設定や施設計画の面で負けている状況です。
私自身世界のいろんなスタートアップや政府とお付き合いしていく中で、リスクの取り方に関する考え方についても「リスクは取るものだ」というのが海外の考え方の一方、日本は「資金を使う以上リスクは回避せねばならない」と考えています。
それが間違ってるとは言いませんが、そもそも科学技術に対する投資というのは本質的にリスクを取って果敢に挑戦すべき領域であり、そこに対する見方は世界と全然違いますし、日本全体の課題と感じます。

――日米を比べても日本の課題が浮き彫りになる中で、できることはありますか?

今の米英政府の動向と比べたとき、日本政府の動きはおおよと2・3年遅れと考えています。その遅れであればまだ方策はありますし、巻き返せるはずだと私は思っています。
現在新しい予算やプログラムも検討されている中で、なんとか巻き返さなければなりませんし、業界もちゃんとあるべき姿に再編したいと思っています。政府としても私のような若手の意見を聞こうと思ってくれていること自体が意識の変革のすごく大きな進歩だと思いますし、変化の兆しはあると思います。

――その変化を加速させるためのエネルギーとしては何が今後必要になってくるのでしょうか?

何より重要なのは、挑戦に対する貪欲さをもっと業界内で芽生えさせることだと思っています。
研究のために研究をすることも勿論重要で崇高ですが、そもそも社会を変えるために研究をしているという想いを持つ研究者の方々もまた輝けるよう、業界自体をかき混ぜて新しい人材や活力を取り入れることも重要ではないでしょうか。

そのため、その辺りは根本的な話と思っており、そういう意味で我々も起業したことによって、日本でも色々な事業会社や投資家の方が業界に入ってくださるようになって、そこに至る潮流は生まれつつあると思っています。あとはもっと若い人にも起業してほしいですし、研究でも組織改革でももっと挑戦してほしいです。何より私自身としても、夢を与えるようなプログラムを作っていきたいと思っていますので、突拍子もないような制度など、これからも構想をしていきたいと思っています。
フュージョンエネルギー産業は、まだまだ世界に勝てる要素を持っていますから、ここでいかに勝っていくか、いかにこの技術的優位性・独自性を生かして勝ち筋を掴むかというのが、今私が一番考えている課題です。

▼取材にご協力いただいた武田秀太郎 准教授のHPはこちら
武田秀太郎 (公式HP)