新社会人にオススメの本:山梨大学の鈴木猛康先生が選ぶ

鈴木猛康 先生の経歴について

山梨大学名誉教授・客員教授、特定非営利活動法人防災推進機構理事長、東京大学生産技術研究所リサーチフェロー。
1956年京都府京丹後市生まれ。
1982年東京大学大学院工学系研究科修了(1991年東京大学工学博士)。技術士(総合技術監理部門、建設部門)。

民間企業、防災学技術研究所を経て2007年山梨大学大学院教授、2011年より同大学地域防災・マネジメント研究センター長。2022年山梨大学を定年退職し、現職に至る。専門は地域防災、リスクコミュニケーション、ICT防災など。
受賞は2012年災害情報学会廣井賞、2018年地区防災計画学会論文賞、2022年野口賞など。

著書は「改訂 防災工学(理工図書)」、「山梨と災害―防災・減災のための基礎知識(山梨日日新聞)」など。
学協会活動は、地区防災計画学会幹事、日本工学アカデミー会員、日本熊森協会顧問など。

オススメの本:増災と減災

鈴木猛康先生が執筆された「増災と減災」の執筆秘話をご紹介いたします。

「増災」の定義付け

阪神淡路大震災の後に、当時京都大学の教授だった河田先生が、災害は完全には防げないけれども、被害を最小限に抑えるという意味で「減災」という言葉を作られました。私は以前、防災科学技術研究所に勤務しており、ITを使った防災のプロジェクトで有名なハッカーの竹内郁雄先生と一緒に仕事をさせていただきました。
数年後に、その竹内先生から「鈴木さん、減災があるから増災ってあるんじゃない?鈴木さんが増災の定義から作ってよ。」と言われたことをきっかけに、それから10年ほど「増災」についてまとめていました。

「増災」とは

国土開発やエネルギー開発など国が良かれと思って推進した開発によって、予期せぬ大きな災害、巨大な被害を与えるものを「増災」と定義しました。これには30年後や場合によっては1000年後に時間差で巨大な被害を与えるものも含まれます。

古い話で言うと、694年藤原京からの遷都があります。藤原京から平安京まで100年の間に4回の遷都が行われ、そのたびに条坊制の都市を建設し、内裏や大極殿、官舎を建て、神社仏閣の造営を行いました。
そのため、滋賀県や奈良県の山の大木が全部切られてしまいました。その影響は今でも残っていて、琵琶湖の南の湖南アルプスはまだ禿山だらけです。今でも植林をしているようですが、崩壊が進んでなかなか森林は復活しません。さらに、これらは花崗岩の山だったので、それが砂になって雨とともに淀川に流れ、大阪港に流出していたため、大阪港は大型の船が入れない状態になっていました。

また、六甲山も豊臣秀吉が大阪城の築城に際して御影石を切り出したことに加えて、町民に対して武庫山の樹木伐採勝手足るべし(六甲山に自由に入って木を切っていい)という布令を出していました。これは住民にとっては非常にありがたいことですが、下草、枯葉、枯枝などが全部持っていかれてしまった結果、六甲山は明治の初めにはもう禿山になっていました。
昭和に入ってから建設省(今でいう国土交通省)が植林をしてやっと緑が回復しましたが、それでも大きな雨が降ったり地震がはっせいしたりすると、大規模な土砂災害が発生しました。私はこういったものを「増災」と定義しました。

では、現在の「増災」は何かというと、再生エネルギー開発による行き過ぎた森林破壊でしょう。
例えば風力発電はヨーロッパでは洋上が普通で、偏西風が吹いているので、安定的に風車が回ります。ところが日本で風が吹くのは、海岸に近い山の尾根です。ご存じないかもしれませんが、一基が200mぐらいの高さの風車の場合、その周りの100m×100mぐらいは基礎を作るために伐採する必要があります。それが200基ぐらい連なって、風車と風車の間が500mくらいだとすると、だいたい幅40mにわたって尾根を切って斜面を盛り、総延長20kmの作業用道路を作ることになります。2050年までのカーボンニュートラルを達成するために、太陽光発電と風力発電により、だいたい我が国の森林面積 の1%が破壊される計算になります。

鳥取県にある弓ヶ浜半島は、江戸時代にたたら製鉄のため、花崗岩の中の鉄分を取った後の砂を海に流した結果、沿岸流によってつくられた半島です。逆にたたら製鉄をやめてしまったら、どんどん侵食されて大変なことになったので、人工的にテトラポットを置いて半島の形状を保っているのですが、森林の1%を破壊するということはこうした日本列島の沿岸地形まが全国で変わることになります。沿岸地形の変化が100年か200年かどのくらいかかるかはわかりませんが、これは不可逆的なことです。

日本は雨とともに窒素や二酸化炭素が降ってきたとしても、森林のおかげでうまく木の根や菌糸が綺麗な水にしたり、斜面を安定させたりしているのです。今、森林を皆伐にすると、2~3年で麓では土砂災害が発生するようになります。再生可能エネルギー開発の工事が全国で行われていますが、すでに工事中の段階で全国でたくさんの土砂災害が発生しているので、私のところにメディアから頻繁にこの画像を見てコメントしてくれという依頼が来ております。既に現在の「増災」というものは、深刻になっています。麓のちょっとした畑や田んぼの被害から集落の被害となり、そのつぎは河川に土砂が流れるので平野でも大洪水が発生し、最後は沿岸の地形を変えてしまう。

二酸化炭素の吸収の3分の1は海藻で行われますが、沿岸が泥かぶってしまったら、もう二酸化炭素を吸収してくれなくなるのです。こういうことが起ころうとしているのに、日本はカーボンの排出量を減らそうと舵を切り、さらに急激にやろうとして再生可能エネルギーに高い固定買取価格を設定したため、海外からも多くの事業者が参入してきて、行き過ぎた開発が行われるようになってしまいました。その事業者の利益分の多くは、再生可能エネルギー発電促進賦課金として、皆さんが支払っている電力料金に上乗せされています。これが現実です。

特に中央省庁の林野庁とか、資源エネルギー庁、国土交通省、内閣府、環境省などの担当者の多くはこれについて知っているでしょうが、政府の号令で行われたので、行き過ぎた現状が顕在化してもなかなか止められません。仕方がないので住民が立ち上がり、住民が市会議員、県会議員、国会議員に訴え、止めようとしています。これが現在の「増災」の一例です。

振り返ると1970年代に田中角栄氏が出てきて1972年に日本列島改造論が発表されたとき、行き過ぎたリゾート開発が始まりました。それにみんなが乗っかって過剰な開発が行われたので1974年に国土庁が設置され、国土利用計画法という法律によって行き過ぎた開発を抑制することになりました。
当時は国土庁が総理府の外局だったので、国土利用計画法は各省庁の個別規制法の上に位置するものでした。ところが、今はこの法律が国土交通省の所管になっているため、個別規制法の上位にはありません。土地の取引をしたときに届出・登録をするための法律となっています。内閣府の下にきちんと監督省庁をおいて、全ての規制法の上位に置く法律をもう1回復活させようと動いています。

学生への読書のすすめ

こういう日本のエネルギー問題の基本を、学生の皆さんにちゃんと知ってもらいたいです。

学生の多くはみんなアパートに住んでいると思うので、電気料金のお知らせの下の方に書いてある再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)という項目を見てください。この電気料金の連絡がメールで飛んでくるだけにしたりすると、見ていないかもしれませんが、結局、この政策が皆さんの生活をかなり圧迫しているはずです。

再生エネルギーの買取についてFITとFIPという制度がありますが、それは一体何なのか、そこでどんなビジネスが発生しているのか、自分の生活と実はすごく密接に関係していますので学んでもらいたい。多くの開発は田舎で起こっているので首都圏の人はあまり知らない。それにも関わらず、首都圏に電力を供給するために地方で多くの住民が被害を受けています。開発のひとつとして山に鉄塔がたくさん建てられていると思いますが、あれは山から電力を都市に供給するだけのものなので、そもそも再生可能エネルギーの開発がなければ不必要なものです。

ノーベル賞を受賞された真鍋先生は、研究成果である全球気候モデルは、まだ研究段階だとはっきりおっしゃっており、気候の問題を科学的な根拠に基づいて説明できるところが素晴らしいのです。まだ、たくさんの仮定に基づいた解析なので、不確実性が多いのです。だから、1週間後の天気だって当たりません。ナウキャストは地上の観測データに基づいて補正をかけているのでほぼ当たりますが、せいぜい30分後の天気予報です。傘を持っていくかどうかはナウキャストを見れば間違いないですが、明日の天気は正しく予測できません。気候学や気象学はそういう世界なのです。ですから2050年の世界気温など、正しく推定できるはずがないと思っています。

そういう現状の中、我が国ではSDGsが良く取り上げられますが、実は一生懸命取り組んでいるのは日本だけです。国連広報センターがメディアに対して広報を求めていますが、真面目にキャンペーンに取り組んでいるのは日本くらいなのです。掲げている17のゴールの中の「エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」と「気候変動に対策を」の2つだけが抜きん出ている状況です。

再生可能エネルギーと言っても森を破壊したらCO2の削減には繋がりません。この矛盾に気づいて森林破壊をやめてもらいたいと思っています。私は単なる再エネ反対論者になってしまうような本を書きたくないので、私の著書「増災と減災」にはしっかりと防災という専門の知識に基づいて分析した結果をまとめています。身近な防災の観点から、それからエネルギーという観点から、ぜひこういう本を読んで欲しいなと思います。

今の時代はわからないことはネットで検索したらほとんど出てきますし、そういうことは若い人の方が得意だと思いますので、たくさんの記事を読んで、誰が何を言っているかを知ってください。

それなりに評価された研究をしていらっしゃる方が書いてあるものはいいですが、何とかコンサルタントという若い方が書いた経営の本は嘘が多いです。自分の研究として書いてあるものが実は全部ハーバード大学の受け売りだったりします。あんな受け売りをそのまま書いてしまうようなことはしてはいけないですし、他にも専門家だけど論者になってしまっている方もいて、自分の専門分野から離れて感情で文章を書くのもよろしくないと思っていますので、そうならないように私は結構注意を払って本を書いています。
本を読むという事は、そういうことを学ぶ一つの手立てになります。

ゼミ生による読書紹介の取り組み

私は去年の3月に定年退職をして、現在はいくつか非常勤講師をしているだけで、指導するゼミ学生を持っていませんが、私のこれまで研究室の学生指導の一環として、最初の頃はゼミの中で読書をさせていました。学生が一番嫌なことだとは思いますが、2~3週間に1回ぐらいの頻度で、研究指導ではなく、学生が読書してきた本の内容を各自に紹介してもらう読書感想の会を開催していました。
学生の中にはネットに載っているような書評をコピーペーストして話すものがいました。最近ではChatGPTを使う人もいるかもしれませんが、それは絶対やってはいけないと決めていました。コピーペーストをしようものなら、教員から「~てなんのこと?」としつこく質問され、コピーしたたことがすぐにばれてしまいます。

ゼミで研究発表する場合には、スライド5枚程度でも大体単語を100個くらい使うことになると思いますが、学生が作ってきたスライドに使われた単語について、どこを聞かれても答えられるようにしておきなさいと指導しました。たくさん調べてきて、それをパワーポイントにして読むのは簡単ですが、知識として身に着かないと意味がありません。パワーポイントの内容はすべて知っているはずなので、彼らの使った言葉の一つ一つを質問していきました。最初は学生にものすごく嫌がられました。

読書感想に変わって、立命館大学の谷口先生が京都大学在学中に考案したビブリオバトルを、10年ほど前から研究室のゼミで実施するようになりました。各自が読書した本の魅力を1分間とか3分間で学生に紹介してもらって、それに対して学生が質問し、最後に読んでみたい本としての魅力を各自が評価し、もっとも高い評価だった学生をチャンピオンとして決めるというシステムが、ビブリオバトルです。

そのときに自分の好きなものを読んでくださいというのではなく、今回は文学、次回は経済というようにそれぞれの会でテーマを決めました。テーマに関連する本を図書館に行って無料で借りてくる学生もいれば、ブックオフで買う人もいる。ちゃんと生協や書店で買うものもいる。そうするとだんだん、自分の好きな作家が決まってくるんです。このシステムの良いところは、自分の専門分野でなくてもちょっと知っていれば、その本を手に取ることができるようになることです。

例えば私の専門としている危機管理なんていうジャンルは、難しく思えるので普通は誰も手に取りません。リスクマネジメントも同様です。ここをまず手に取りやすいように、どんなことかくらいはわかるような知識を、他の人が読んできた本から学んでもらいたいと思いました。そうすると、紹介された本がすごくいいなと思うとそれを買うようになるのです。就職してからも同様で、あることについて君がちょっと調べなさいと言われたときに、自分で調べられるのです。本屋さんに行って、本を手に取ることが怖くなくなるのです。ほんの1分間でゼミ生30名ぐらいが、メモもパワーポイントも使うことなく、本を体の前に出してとにかくPRするので、当然喋るのも上手になります。

こういうことをすることによって、大学院生は修了するときに、自分の好きな作家が言えるようになっています。いつの間にか、何も言わなくても自分で好みの本を買って読んでいるのです。そういうことが15年ぐらいかけてやっと実現できました。

だから友達同士や先輩・後輩の間で、とにかく話題が出たならば、そのことについて自分で調べる習慣ができるといいなと思います。私の学生時代は、東京大学の大学院に通っていましたが、今流行りの文学があれば持ち寄って、お前これどうだ、この辺が面白かったぞと言い合いながら、やっぱり切磋琢磨していました。それについていかなかったらダメだと思って、できるだけ広い分野について、最初は浅く知っておいて、深く知らなきゃならないときにすぐに調べることができる準備をしていたように思います。

深く知ろうとすると、本1冊ぐらい読んでないと駄目で、本を1冊読むと引用する本や文献があって、結果として3冊ぐらいプラスで読むことになります。一番大事なのはここだと思います。

鈴木ゼミの就職状況

指導の成果が現れ、5年が経過するともうほとんどの学生が建設コンサルタントという分野では、みんな一流・トップ企業に入るようになっていました。建設コンサルタントというのは入ってからが大変で、会社を運営するために不可欠な唯一の国家資格である技術士を取得しないと一人前ではありません大学院修士課程の2年間が実務経験になるので、その後さらに3年間の実務経験を積んで合計5年で受験資格が得られますが、普通はそう簡単に合格できません。

通常は取得に平均で10年以上かかるのですが、私のゼミの学生は4年目で最初に受験して不合格となるようですが、その次の5年目で合格しています。技術士の資格取得後は仕事次第で出世できます。普通は30歳程度で1人当たり3000万円、4000万円の仕事をこなすところ、2億円ぐらいの仕事をこなして会社でナンバーワンの実績を残す卒業生も出てきました。私の事務所に急に訪ねてきて、「やりました。僕今エースです」って来てくれると嬉しいですね。そうなることを目論んでやってきましたが、こんなに成功するとは思いませんでしたから。

教え子にはこのように言い聞かせていました。君たちは、東京大学や京都大学出身の人と同じ超一流会社に入れても、決して同等になったと思うな。大学に入ったときの偏差値が違うということは、基礎学力は当然ながら君たちは劣っている。君たちにはどうやって学ぶかということをちゃんと大学院で教えたでしょ。鍋があったとして君たちが鍋の底に貼りついているとすると、東大や京大出身者は今、鍋の蓋にいるからいつでも鍋の中に飛び込める。だから鍋の底から蓋へと必死になって這い上がれ。多分学生には1回か2回しか言ってないですが、みんなしっかり覚えていました。最初から負け犬になってしまったらおしまいですからね。あるいは、自分ができると思って努力しなければ、そこには不幸が待っている。

企業の中だと、有名ではない大学の出身者でもしっかりと社長になり、あるいは重役になって役割を果たしています。みんな東大、京大出身者ばかりではない。起業で成功している人はやはりしっかりと努力をして、真摯な態度で仕事に向き合って、お客様から信頼を受けている人だと思います。

そういう人には、新しい情報や仕事が入ってくる。50代になってくるともう出身大学に関係なく、できる人は上にいきます。私が大学に赴任した当時は知りませんでしたが、実は山梨大学の土木環境工学科は、関東で言うと東大、日大につぐ3番目に設立された土木工学科だったのです。すごい伝統のあう学科で、設置当初であれば、いわゆる国家公務員の上級試験に卒業生の3分の1から2分の1ぐらいは合格していたそうです。

それがだんだん入試制度の変化も相まって、偏差値が下がり、私が先生になったときは、具体的な就職状況は、東工大と比べると結構下であったように思います。いわゆる建設会社、スーパーゼネコンの4社プラス1社のうちの1社にしか就職できていない年もありました。建設コンサルタントにも、スーパーが3社あって、その下に5,6社の中堅があるのですが、スーパーにはあまり就職できていなかったと思います。

でも就職率がほぼ100%との理由から、古い先生は、「鈴木先生、うちの学科は就職がいいです。」とおっしゃるのです。古い先生っていうのは、大学しか経験していない建設業界の実務をあまり知らない人です。私がとんでもないですよと言ったら、うちはいいんだとすごく怒られたことを覚えています。東工大のホームページをご覧になってください、全然違いますからと言ったが、理解してもらえなかった。

学科の学生みんなが一斉に超一流の会社を目指すとはならないので、まずは自分の研究室から指導を始めました。だから学生に読書をさせた。しっかりと面倒を見る。学部だとなかなか指導する時間がないから大学院進学を勧める。就職実績を見ると、鈴木研究室は就職が良いとなってきた。でもあの研究室は厳しいらしい。本を読まされる。ところが、厳しいから行きたいと言って来てくれる学生がいた。次第に成績がいい学生ばかりが研究室に来るようになりましたね。来た学生が頑張ってくれる。
その結果、学生がトップ企業に就職する。その卒業生が企業で高い評価を受け、リクルーターとして大学に来てくれる。こうした好循環ができて、鈴木先生を真似て研究室を運営しようとする先生も出てくるようになりました。

本の選び方①ー歴史書のすすめー

あまり分野を選ばずにチャレンジしてみることが一番だと思いますが、強いていうなら歴史書を読んでもらいたいですね。やはり過去から学ぶことはすごく大切で、特に中世、織田信長、武田信玄、徳川家康、この辺は読んでみるとマネジメントの視点ですごく勉強になると思います。

戦略だけではないです。強かったという武田信玄も、実はすごく勉強していて、中国四書をはじめ中国の多くの書物を読み、2000年前の中国の歴史から学んだことを、戦だけでなく政治にも適用しています。

彼は53歳で亡くなっているので勉強した期間は短いですが、ほとんどは中国から学んだのですね。徳川家康は武田信玄から学んで、武田信玄から受け継いだ制度や家臣をうまく使って政治を行っています。武田信玄の学びの多くが徳川家康の知恵になっている。
そこには人をいかに育てるか、どうすれば民の支持を得られるか、物事にどのように立ち向かうかなど、学ぶことが無限にある。若い経営コンサルタントの非常に浅い話よりずっといいです。

本の選び方②ージャンルはこだわらないー

あまりジャンルにはこだわらず、まずは1冊興味があるものを自分でお金を出して買うことだと思います。

もらったとか、あるいは100円ぐらいでブックオフで買ってきたものは、読まないで置いておいてもいいやと思うのですよね。自分のお金で買った本は、場合によっては2年後、3年後でも読むのです。少なくとも私はそうでした。学生時代に自分でお金を出して買った本で読んでいない本はありません。1冊読むと、関連した本にまた手を伸ばしたくなるので、本を2,3冊読めるようになってきたら、インターネットやテレビで今話題になっていることについて1冊チャレンジをして選んでみてほしいです。

最初はもちろん自分の好きなことや興味があることじゃないと読まないです。野球だけやってきたような学生はイチローの本しか読まなかったです。何か読んでこいと言ったらイチローの本を読んで、毎回同じような感想を発表しますが、そうじゃないでしょって思います。

イチローのマネジメントのベースにあるものが何か知りたくないか、彼だって何も考えないであんなに練習しているわけではなく、背景には彼の理論があります。
そうしたら君には君の理論が必要でしょう、それが今ないのであれば、学生時代に時間を作って理論を形成する必要があるだろうと。企業に入ったら暇がないからできなくなってしまう。そう言われたら仕方なく、嫌だ嫌だと思いながら本を読むのです。そして目覚める。だから飴玉を出して、嫌ならいいよと言って甘やかすと駄目です。それでは本を読む習慣がほとんどなくなります。

Kindle版もありますが、あれは本を読んでいる人が端末を使った方が便利と言って使うのはいいのですが、最初からKindle版はよくないと思います。思っているところにすぐに戻れたり、気になるところにマークすることができるのが本のいいところです。1回1回最初にこれ読んで、次これ読んでとしていると、先生に言われないと読めない人になってしまいます。友達同士でお互いにこの本がいいよとPRし合い、切磋琢磨していると、そのうち読書の楽しさがわかってくるはずです。

やっぱり読書するようになりたての頃は、作者が意図していることが理解できていない。学生が読んできて発表しても、作者の意図していることじゃないところばかり言うので、「それおかしいでしょ、こんなこと書いてなかった。本当に作者が言いたかったのはこっちじゃないの?」とまずは学生同士で指摘し合うことから始めます。1年以上経って、本を読む経験を積むと、「私はこれを読んでこう感じたのだけれども、あなたはどうしてそう感じたのですか?」という会話が生まれます。本を読むだけではなく、内容を理解できて、それをまとめらあげる国語力も向上させなければなりません。

企業に入っても同じです。「昨日の話はどうだった?」に対して一言で答えられなければいけない。読書というのは、1回で読めるようになるようなものではない。継続が大事です。それから読書は趣味になるものです。趣味にしてもらうのがいいので入口は非常に買いやすいのがいいですが、その内複数の同僚とか、学生同士で議論し合えるようになるようにする。自分たちがちゃんと切磋琢磨しているなということを実感できるようになったら最高です。そのときにはもうそれぞれが自分の好きなジャンルがあったり、作家がいたりしますよね。そうなると将来も本を読みつづけられるようになります。

ビジネスへの活かし方

本を読めるようになると、ビジネスにおいても与えられた課題についての調べ方がわかります。読書は、学生にとってみれば自分の経験も含めて切磋琢磨しながら一緒に成長していった一つの要素です。私は現在で言うと、ものを書くのも仕事になっていますので、1冊の本を書くためには多分100冊ぐらいの本を必ず読んでいます。

当然速読しますから、あっという間なのですが、この技術はもう私の仕事道具なのですよ。そのジャンルは千差万別ですが、全部自分の骨となり血となっています。読書はいろいろな場面で使えます。講演でも、私は防災の話をしていますが、そこから外れた質問があったときでも対応できる。読んでいないことの方が怖いです。

最近だと森林とか再エネ、生態学の話をしています。農業や林業などさまざまなことを勉強しましたが、すべて興味を持っているから読めるのです。学者の書いた専門の書物であっても、全部読む必要はないので、必要なところを読んでそこをちゃんと理解する。理解したら、できるだけそれを使ってみるということが大切ですよね

関連する話題になると話してみる。どれだけその専門の方と一緒に話ができるかを確認する場でもありますが、ある程度の知識に基づいて話すことができるから、新たな有益な知識を得ることができます。名刺をいただき専門分野を聞いたときに、それに合わせて話題が作れます。私は営業マンではないので、営業するために使うわけではないですが、自分の仲間になる人かどうかはずっと測っているのですよね。立派な本は書いているけど、実際にはそうじゃない人もいます。心底その問題について疑問を感じて課題を解決しようとしている人であれば、そこで交流ができます。一緒にやりませんかと。そういう仲間が私の財産になります。

学生の指導方法について

私もずっと実践をしながら成長してきたので、15年前はこれだけのことは言えなかったです。それから学生のこともよくわかってないから、指導をする際には、学生がこれに耐えられるか、耐えられるならもう少し厳しくするかなどと模索しながらやってきました。

私はできるだけ卒業生を研究室に呼んで在学生と交流する場を設けていました。会社に入ってどんな仕事になるかを聞いていたとしても、実際に入ったら違うというのは当然あると思いますが、とにかく聞いてみないとわからないことが多いですよね。また、今の学生は40代、50代の先輩が話す会社の話よりも、まずは5年ぐらいのことが知りたいので、就職後5年ぐらいまでの卒業生に来てもらって、自分がどんなに苦労して、どんな仕事をこなしながら、今ここまで来ているかという話をしてもらうようにしています。

▼取材にご協力いただいた鈴木猛康 教授のHPはこちら
鈴木猛康 - 防災研究室