社会貢献活動 × National Institute of Fitness and Sports in Kanoya.

鹿屋体育大学の紹介

鹿屋体育大学は、鹿児島県大隅半島の鹿屋市にある、全国で唯一の国立の体育系大学として、1981年(昭和56年)に設置されました。

学部は体育学部のみで、スポーツ総合課程と武道課程の2つの課程があり、それぞれの専門に向けた学びが可能です。学生数は大学院生を入れて約800人の小さな大学ですが、全国各地から学生が集まり、豊かな自然に囲まれた広いキャンパスで、学びに集中できる環境が整っています。

国内初の最先端スポーツ科学研究設備を備えた「SPORTECスポーツパフォーマンス研究センター」のほか、「スポーツトレーニング教育研究センター」「屋内実験プール」「国際交流センター」「海洋スポーツセンター」など、国立の体育大学ならではの教育・研究設備が充実しています。2023年(令和5年)からは、「スポーツイノベーション推進機構」を設置し、本学の研究資源を統合し、先端的な研究の推進を図っています。

23団体ある課外活動には、ほとんどの学生が加入しており、全国規模の大会で優秀な成績を収めています。加えて、地域の方々を対象とした競技会やスポーツ教室の開催、自治体等が主催する競技大会での審判や運営・指導補助等、積極的に社会・地域貢献活動に取り組んでいます。

「Exseed」と「Exhike」の概要

髙井教授:Exseed(エクシード)は、「運動」を表す「Exercise(エクササイズ)」と「種」を意味する「Seed(シード)」を組み合わせた造語になっており、種から苗を育てるように、「運動の種」をまき、子どものころから楽しく運動に親しむことが習慣化され、将来的には動ける日本人が増えるとともに、未来のアスリートが芽吹いて欲しいという思いを込めました。

Exseedは、子どもの体力向上を目的とし、下半身を鍛えるためのスクワットやランジという基本的な運動をベースに構成されています。もともとは本学のプロジェクトとして、小・中学校との連携の下で、児童・生徒の体力と運動能力の向上を図ることを目標とする取り組みがありました。

このプロジェクトを進める上で、子ども達に運動する機会をつくろうということで試行錯誤していたところ、5分間ぐらいの短時間で行えるものであれば学校や家庭でも取り組みやすいのではないかということで、5分前後で効果のありそうな運動について考え、さらに楽しく運動に取り組めるように、音楽に合わせたダンス風にアレンジしたものとしてExseedが誕生しました。

次に、「Exhike(エクスハイク)」についてですが、Exhikeは、「Exercise」と「Hike(ハイク)・Hiking(ハイキング)」を組み合わせた造語になります。
Exhikeは、登山の運動生理学について長年研究に携わってきた本学名誉教授の山本正嘉先生によって考案されました。

近年の登山ブームの影響から、登山初心者が十分な準備をすることなく、いきなり山を登ろうとし、その結果、けがをしたり、事故に見舞われるケースが後を絶ちません。それらのトラブルを未然に防止するためには、しっかりとした事前準備や普段からのトレーニングが必要になります。

本学のスポーツトレーニング教育研究センターには、酸素濃度や気温等を調整して登山時の環境を再現できる環境シミュレータがあり、低酸素状態などの環境を再現することが可能です。しかしながら、こういった装置は特別なものであって身近にはありません。したがって、普段から登山に必要な能力を身に付けることができる一般向けのトレーニングが必要とされました。そのような中で考えられたのがExhikeです。

Exhikeを行うことで、登山の際に必要な「筋力」「柔軟性」「バランス能力」「コーディネーション能力」などを身に付けてもらい、けがや突発的な事故を防ぐことが可能になります。

栫准教授:Exhikeは、ラジオ体操のようなイメージで、どなたでも気軽に短時間で、登山に必要な体力や身のこなしなどを身に付けられ、繰り返し行えるような運動を目指してつくられました。

Exseed、Exhikeともに多くの人が気軽に行えるよう音楽に合わせたダンス風の運動にアレンジし、日常生活の中で飽きることなく楽しく継続できるように約4分の曲で構成され、運動強度の異なる「イージー」「ベーシック」「ハード」の3パターンがあります。また、Exseedでは、2人で行う「ペア・バージョン」や障がいのある子どもでも取り組める「車いす・バージョン」、子どもから高齢者まで年齢を問わず、教室やお家のいす座ったままでできる「座位・バージョン」のほか、家庭における親と子どもや、学校における先生と子どもの2人で行う「親子・バージョン」などもつくっています。

Exseedをつくった背景にある現在の子ども達の体力低下の原因

髙井教授:1960年代に比べると、現代の子どもは体力が低下しているというデータが公表されています。
この要因として、日常生活での活動量が少なくなっていることが挙げられています。具体的には家でゲームをしたり、塾に通ったりする時間が増大し、反対に、放課後の外遊びや学校における体育の授業時間が減少していると考えられます。

子どものころの運動習慣は、成人になってからも影響するといわれているため、日常生活において意図的に身体活動量を増やす必要があります。その手段の1つに運動があり、子どものころから楽しく運動に親しむことで運動習慣を身に付けて欲しいという思いから「Exseed」のプロジェクトが始まりました。

Exseedを活用している学校やスポーツクラブ等の状況とKKB鹿児島放送との連携内容

栫准教授:約3年前にExseedが開発され、まず、鹿屋市内の小・中学校を中心に普及させていきました。
もともとは、髙井先生が10年ぐらいかけて、蓄積されてきた運動生理学的な知見をベースに、楽しみながら繰り返してできるような運動にしようと考え、さらに、私の専門がダンスと学校教育の分野であったことから、トレーニングの動きをダンス風にアレンジしてみてはどうだろうかということで、髙井先生と私とで基本的な動きをつくり上げました。

ただ、本学が体育大の単科大学なので、音楽や曲を作る技術やノウハウが全くなく、この部分で試行錯誤していたところにKKB鹿児島放送さんが、子どもの運動の普及に関して、本学と連携の下での可能性を探っていることを知り、曲づくりの知恵をお借りしたいと相談を投げ掛けたところ、アーティストさんの紹介や、YouTubeやホームページからの情報発信のノウハウをいただけるということで、コラボさせていただき、Exseedの普及に協働で取り組むこととなりました。

KKB鹿児島放送さんのニュースで取り上げてもらったり、YouTubeの番組製作や動画配信アプリ「KAPLI」での動画を始めとする情報発信など、様々な媒体を活用したPR・広報活動による効果から、Exseedは鹿児島県全域に広まり、さらに大分県や愛知県において、県の教育委員会や学校関係者を中心に指導者講習会を開催するなど、県内はもとより県外でもExseedが認知されるようになってきました。

また、本学は、将来、保健体育の教員やスポーツ指導に携わる学生が多数所属しています。より高いレベルの実践的な指導力を身に付けるため、学生のうちから、様々なスポーツ現場に出向き、指導経験を積むことを重視しています。Exseedについても、学生に「Exseed指導員」の資格が取得できる授業や指導者講習会等を受講してもらい、認定指導員として小・中学校やスポーツクラブなどで指導を行っています。

さらに、本学は全国各地から学生が集まっているため、卒業後に教員として教えているそれぞれの学校やスポーツクラブ等でExseedの普及促進に努めてくれています。恐らく、私達が把握している以上に日本全国の多くの皆さんがExseedを実践してくださっているのではないでしょうか。

「Exseed」と「Exhike」で得られる効果

髙井教授:運動能力としての「走る」「跳ぶ」ということをターゲットに取り組んできましたので、下半身の動きがメインとなっています。Exseedをつくるにあたり、栫先生にダンスの動きにあるような上半身と下半身の連動する動きも組み入れてもらい、全身運動となるプログラムをつくり上げてもらうことにしました。

もともとは、下半身メインのエクササイズとして、5分で約90回のスクワットをするように考えていましたが、上半身も使うことにより、下半身だけの動きよりも苦しさが半減するとともに、楽しみながら実践できるものに仕上がったのではないかと思っています。

栫准教授:Exhikeは、強度別のプログラムを設定し、登山やハイキングに親しむ方々が、自分がどのレベルの山にチャレンジできる体力があるかについて知ることができる指標としての役割を果たすことが期待されています。Exhikeを行うことで自分自身の心身の状態を正しく把握することが可能となり、安全で無理のない山登りの実現に資するものと考えています。

今後の展望

栫准教授:ExseedとExhikeは、エビデンスとして確立されたものですが、その中で「ベーシック」と呼ばれる1番基本の形から始めて、子どもや登山者の体力や運動能力に応じて負荷をコントロールできる「イージー・バージョン」や「ハード・バージョン」などの強度を変えたバージョンをつくっています。

それに加えて、Exseedでは、「ペア・バージョン」や「車いす・バージョン」、「座位・バージョン」「親子・バージョン」などもつくり、現在、様々なニーズに応えるため、バリエーションを増やすことに取り組んでいます。

今現在は一般の子ども達をターゲットにしていますが、「もっと競技力を向上させたい」とか、「サッカーやバスケットボールに特化した運動能力を高めたい」などの要望に対し、個々の競技特性によって鍛えるべき部位や能力が異なるため、最終的には競技ごとの「種目・バージョン」のようなものもつくりたいと考えています。

結果として、子ども達のニーズや体調に合わせて選べるようになれば、飽きることなく継続して行えるのではないかと考えています。

髙井教授:取り組みの甲斐もあって、ExseedとExhikeは、普及し始めてきたと思います。一方で、子ども達の様子を見てみると、今のExseedをこなせるまでに至っていない子ども達も少なくありません。
そのような子ども達のために、基本的な体の動かし方やストレッチなどを組み入れることも重要であると認識しており、Exseedを行う前の事前準備として、体の機能を高めるようなものや、各種目に特化したものをつくっていくことについて、それぞれのエビデンスを取りながら新しいプログラムを生み出したいと思います。

いずれにしても、多くの人たちが運動するきっかけとして、ExseedとExhikeを活用してもらえるように指導者養成やイベントなどを通して普及を進めていきたいと思っています。