
社会貢献活動 × Fukuoka Jo Gakuin Nursing Univ.
目次
福岡女学院看護大学の紹介

福岡女学院看護大学は、明治以来138年の女子教育の歴史のある福岡女学院の姉妹校として、2008年に福岡県古賀市に開校した看護大学です。
教育の特徴は、「あなた方がして欲しいように、他の人たちにもそのようにしなさい」というキリストの教えを基に、人間の尊厳、倫理観を備え、ヒューマンケアリングを実践できる人材の育成により社会貢献をすることを教育理念として掲げています。
ヒューマンケアリング教育とは、 「他の人の看護を通して、看護される側も看護する側も 共に人として成長する」という考えに基づいています。
また、大学は、その使命でもある「教育」、「研究」、「社会貢献」に取り組む際に、「社会の良き道具として成長しよう」をモットーにし、教職員・学生が一丸となって取り組んでいます。
本学の教育研究活動の特徴は、以下のとおりです。
- キリスト教の精神に基づき、博愛の心をもった看護職者を育成しています。
- 「ヒューマンケアリング」を実践し続ける看護職者として、組織的持続的に看護活動の発展普及に努めています。
- ICT教材(ミッションタウン)により、いつでも・どこでも・どのような場面を想定した最先端の看護学が学べるように仮装コミュニティ教材を開発し、あらゆる場面に対応できる看護大学を目指しています。
- 我が国最大規模のシミュレーション教育センターで、コンピューター制御したモデル人形を対象にして1年次から病院実習のような看護体験学習ができる、シミュレーション教育をリードする看護大学です。
- 様々な資格を取ることができます。一次救急救命の国際資格や、多言語コースではTOPEC看護英語試験等の受験等も可能で、グローバルな視野から看護探求を目指すことができます。
- 楽しい学生生活を送ることができます。200本のオリーブが育つオリーブの森の看護大学で、オリーブ祭、収穫祭、バーベキューパーティーといった本学独自の学内行事が楽しめます。
- 2023年、大学院がスタートしました。教員や病院の教育指導者となるための新たな扉が開きました。
- 開学以来就職率は100%です。
福岡女学院看護大学が掲げる、社会貢献の方針
― 福岡女学院看護大学では、どのような社会貢献活動を目指されていますか?
本学が掲げている教育目標によく表れていると思います。本学はキリスト教の精神に基づいた教育を行っており、教育目標には「ヒューマンケアリング」という概念を取り入れ、看護師と患者がともに人間的に豊かに成長することを目指しています。
さらに、本学は「(大学が)社会の良き道具として成長しよう」というスローガンを掲げています。これは、看護職者の育成を通じて社会に貢献し、大学自体が社会にとって価値ある資源となるよう努めるということです。この目標そのものが、本学の社会貢献に対する基本的なスタンスではないかと感じています。
そして、私がセンター長を務めている社会連携推進センターは、本学が教育理念を実現するための一翼を担う、学内の組織の一つとして認識いただければと思います。このセンターを一つの起点として地域の団体や住民の方々との交流を促進することで、大学と社会とのつながりの強化に努めています。
― すでにさまざまな企業や市と連携されていますが、それらの連携はどのようにして始まったのでしょうか?
本学が最初に連携したのは、本学が所在する福岡県古賀市でした。古賀市内には、本学のほかに大学がないこともあり、大学が設立された際、大学の社会貢献をしたいという両者の思いが一致して初代学長と当時の市長が連携協定を結んだのです。
その後は教員たちの社会貢献活動を通して、他の企業や団体との関係が徐々に広がっていきました。連携先は、本学がキリスト教や看護の教育を行なっていることから、健康や地域社会を支える活動を支援する各種NPOや社会福祉法人等の団体とのつながりが多いです。さらに、本学に在籍する教職員や学校関係者の活動を通じて、企業や他の団体との連携も深まっていきました。
社会連携推進センターの役割
― 社会連携推進センターの役割や活動について、詳しく教えてください。
社会連携推進センターの役割は、本学に在籍している教員がもつ専門性や技術を社会に向けて発信し、外部の人々との繋がりを作ることです。
現在、本学には約40名の教員が在籍しており、それぞれに専門領域や研究テーマをもっています。地域住民からは大学教職員がどのような専門性をもって活動しているのかが見えにくく、大学教職員からは住民が抱えているニーズがわかりにくい現状があると思います。
教員の「専門性を紹介したい」という気持ちと、社会の「このような支援がほしい」というニーズをマッチングしていくことが、社会連携推進センターの最も重要な役割です。
― 社会連携推進センターの活動を通じて、特に印象に残っている出来事はありますか?
まずは、地域住民の方々が本学や学生との健康管理を通じた交流を楽しみにしてくれていることが何よりも嬉しいです。この数年はコロナ禍によって住民の方々との交流の機会が減っていますが、特に大学祭での健康測定イベントは大変好評です。参加してくださった住民の方々には健康記録ファイルを配布し、毎年の健診結果をファイリングして健康管理に役立ててもらっています。
また、以前、本学が大学祭で販売していた「ヘルシー弁当」に対する住民の方々からの反応も、とても印象深いものでした。ヘルシー弁当は、「まごたちわやさしい(※)」食材を実際に使用した健康的なお弁当です。こちらは、現在はコロナ禍によって実施が難しくなっていますが、好評だったことがとても懐かしく思い出されます。
住民の方々から「健康測定会を含め大学の活動を、自分の健康状態を確認する目安にしています」と言っていただけた時は、非常に嬉しかったですね。
(※)「まごたちわやさしい」とは、「まめ類」「ごま、ナッツなどの種子類」「たまご」「にゅう製品」「わかめなどの海藻類」「やさい類」「(骨ごと食べられる)さかな」「しいたけなどのキノコ類」「いも類」の頭文字をとった、カルシウムの摂取やその吸収を高めるためにバランスの取れた食材を表す言葉のkeywordsです。
それ以外にも、在宅介護をしている方々は多くの悩みを抱えているから、彼らの悩みやニーズを社会に伝え、支援するための仕組みの構築に協力して欲しいという大学への期待のお電話を、本学に直接いただいたこともあります。
また、日本全体では高齢化が進んでおり、古賀市内でも一部の地域では高齢化率が40%を超える行政区があります。これらの地域では、生涯にわたって住民が健康で活動的に暮らせるよう、健康づくりのサポートや健康測定、健康講話などのニーズが高まっています。そこで、住民の方々がより良い健康を維持する方法について、本学にご相談に来てくださり、それ以来その地域の活動は継続的にサポートしています。
最近では、地域の方々から「地域に看護大学があることが宝だと思っている」という、大変嬉しいお言葉をいただきました。これらの反応から、本学が社会における一つの重要な社会資源として地域に根ざし、住民の方々の健康作りに活用できる強い組織として少しずつ認知されてきたのではないかと実感できていることは、非常に有り難いですね。
社会貢献活動に取り組むようになったきっかけ
― 松尾先生ご自身が、社会への貢献や連携に焦点を当てるようになったきっかけについて教えてください。
本日は社会連携推進センターのセンター長としてお話ししていますが、実は私自身は保健師です。保健師の役割は、地域の健康な人々や成長過程にある人々の健康の維持増進を育む「ヘルスプロモーション」を積極的に推進し、市民全体の健康レベルを上げることや、地域住民で協働する地域力を上げることが大変重要な役割です。
「地域」は、時代と共に変化しています。また、「地域」には様々な特徴・個性があります。それらに対応する力をつける保健師教育は幅が広く、奥が深く、変化への対応力が求められます。
保健師歴が短い私は、地域力を高めるような保健師経験は乏しかったので、できることならば、地域住民と関りながら保健師教育を続けたいと思っていました。
そんな時、前任校で、住民の方から「高齢化が進む地域だけど、いつまでも元気に楽しく生き生きと生活が続けられるような地域づくりがしたい」と協働のご相談がきました。それ以来、約20年、社会貢献、地域活動への参画は、私の仕事そのものでもあり、楽しみでもあり、生きがいでもあります。
地域と連携した福岡女学院看護大学の保健師教育

― 貴学で行われている保健師教育について、具体的な内容を教えていただけますか?
「保健師教育」では、保健師になるための技術や知識を教えていますが、地域住民を健康の維持増進のためにセルフケアに導く予防教育については、教室で知識を学ぶだけでは限界があると感じています。
どのようなことかと言うと、一般的には「予防は大切だ」と言われても、人の生活習慣は変えにくく、頭で理解しても何も病気の自覚のない時から健康的な行動を継続的に続けることは容易ではありません。学生たちは自覚的には健康ですが、生活習慣には改善が必要な課題をいくつか抱えています。単に予防のための知識を提供するだけでは、学生自身の行動変容までにはなかなか繫がりません。
自分が実践できないことは、他人にも伝えられませんよね。学生には、あえて自分自身が健康増進や疾病予防の為に行動変容することが容易でなかったことを意識化させる体験学習の機会を設け、その上で、対象の目線にたって、対象に伝わる予防教育の在り方を考えさせる学習機会を設けています。
このように、学生自身が看護職になるための支援者役割を学びながら、一方で、健康増進という観点からすると要支援者でもあるという自分の状態を意識して学習することは、看護の対象を予防から生涯健康まで幅広くとらえることにつながると考えています。
先日開催された大学祭で実施した健康測定会では、参加いただいた住民の方々に健康に関する説明を行う、いわゆる学生が伝える力を育む機会を設けました。このように本学では、古賀市民の方々との交流を通じて学生が学び、同時に住民の方々にも何か新たなことを学んでいただけるような教育を推進しています。
このような学生時代の様々な社会貢献活動の体験を通して、個人に対して支援するだけでなく、家族や地域社会との連携協働の中で支援を行うことが重要であるということを実践を通して学ぶことで、卒業後も広い視野をもって活動できる看護職の育成につながっていくと感じています。
― 地域との係りを通じて、地域全体の意識に変化を感じられることはありますか?
福岡県内には60の市町村がありますが、その中でも古賀市の医療費は高いほうに位置している一方、介護保険料は最も低い状況にあります。それには、古賀市と本学が開学以来、連携して推進してきた骨や筋肉量の健康測定を実施するという住民ボランティアの活動が一つの効果をもたらしてきているのではないかと感じています。古賀市との長年の共同活動が地域の健康レベルの向上に寄与しているのではないかと感じています。
若い頃は無理をしたところで、すぐには大きな支障が現れないものです。年齢を重ねるうちに、若い頃の生活習慣の影響が徐々に現れ始めます。繰り返しになりますが、本人が意識を変えなければ行動は変わらないため、まだ歪みが出ていない若い世代の健康管理を啓蒙およびサポートすることは、依然として課題であると思っています。
人は、ただ健康であるために生きているわけではありません。地域の存在価値も日ごろはあまり意識しません。しかし、いつまでも生き生きと、生きがい、やりがいを持って、元気に暮らし続けるには、「健康」と「地域」との係りがとても重要だと感じています。全ての人は、一人一人、貴重な人生経験をしています。その経験を社会のために生かせるような地域づくりを目指して活動していきたいですね。
今後の展望
― 社会連携推進センターおよび貴学の今後の展望について教えてください。
本学では、宗教部がほぼ毎日実施する礼拝「チャペル」や本学の理念である「ヒューマンケアリング」等の教育により、キリスト教の愛の精神をベースにした優しい看護師の育成が社会的にも高く評価されてきています。また、コロナ禍以降、特に注目され始めた入院患者への模擬訓練ができるシミュレーションセンター(学生が心電図や心拍数の変化をモニタリングしながら、実際の患者ケアを想定した実践訓練が可能)ですが、本学は2017年にシミュレーションセンターを設置し、「看護シミュレーション教育学領域」も設置して、先駆的に取り組んでいます。他県からの視察も年々増加し、2023年には学会を開催しました。その関心は、社会に広がりつつあると感じています。
また、本学では多言語医療支援コースも設けており、国際化が進む中で、医療現場での多文化・多言語対応能力を育成しています。
また、産官学民の枠組みの中で、本学は長年にわたり小学生の健康づくりに関わってきました。特定の小学校で6年間にわたり実施した骨の発育をサポートする活動は、研究期間終了後も、その学校のプログラムとして継続されています。この取り組みは、来年からは希望する他の小中学校にも広げていくと伺っています。
産官学の枠組みの中では、これまで本学は産業界と関わりをもつことが難しいという課題がありました。しかし、最近では企業が従業員の生涯健康を推進する「健康経営」の取り組みが増え、その分野で協力できる機会が拡大しています。生命保険会社や行政との協力により、産業現場にいる従業員の健康を支援する仕組みの構築が進んでおり、市民の健康づくりに対する幅が広がっていることを実感しています。
文科省の補助金事業などを通じて、学内の社会貢献に対する意識もさらに高まってきたように感じています。この動きに伴い、今後は全教員の専門性を発揮して市民の生涯健康学習を支援するような取り組みができればいいなと感じています。
これらの特徴的な活動や、長年培ってきた実績が今後も少しずつ実を結び、広がっていくことが非常に楽しみです。本学の活動が社会に広く認知され、必要としている人々に届くことで、新たな産官学民の連携や市民の生涯健康の推進に繋げていければと考えています。