社会貢献活動 × Shikoku Gakuin Univ.

四国学院大学の紹介

四国学院大学 キャンパス

四国学院大学は、1949年、米国南長老教会宣教師と日本人キリスト者によって、福音主義キリスト教信仰に立つ高等教育機関として設立された、リベラル・アーツを基礎としたミッション・スクールです。

入学してから専攻(メジャー)を選ぶ「メジャー制度」が大きな特色で、20メジャー+4マイナーの幅広い分野から学びたい学問を主体的に選ぶことが可能です。学部を越えてメジャー選択も可能であり、途中で変更も可能、2つのメジャーを選択することも可能です。自分の可能性と向き合い、最適な学びを主体的につくることが可能です。

社会福祉学部ふくし祭り(Wel-Fes in SGU) 開催の経緯や目的

― 社会福祉学部ふくし祭り(Wel-Fes)開催の経緯や目的について教えてください。

富島喜揮教授(以下、富島教授):Wel-Fesを開催した背景には、福祉を担う人材を発掘する目的があります。というのも、全国的に社会福祉を学ぼうとする学生が減少しているという現状があるからです。

多くの大学や専門学校(以下、養成校)では社会福祉士や精神保健福祉士の資格を取得できる養成課程を設けていますが、学生が集まらないために養成課程を閉鎖する学校が増えています。学生が集まらないのは都市部の大学も例外ではなく、この傾向が続けば、将来の福祉を支える人材はさらに減少してしまうでしょう。

本学には66年の歴史を持つ社会福祉学部があり、社会福祉士や精神保健福祉士の養成課程を設けています。かつては「社会福祉の四国学院」と称されるほど本学の福祉教育は盛んでしたが、全国的な傾向の中で、本学も入学者が減少傾向にあり、次世代の福祉を担う人材の減少を実感しています。

とりわけ、香川県内で社会福祉を教える大学は本学のみであり、このままでは地域の福祉を担う次世代の若者が育たないという問題に直面してしまいます。そこで、福祉をもっと身近に感じてもらい、四国学院大学で学ぶことへの関心をたかめたい思で、昨年からWel-Fesを開始しました。

北川裕美子准教授(以下、北川准教授):Wel-Fesは、特に次世代を担う若者に福祉の魅力を感じてもらうことを目的としています。また、福祉についてあまり考えたことがない地域の方々にも、気軽に参加いただける場を提供することを目指しています。

― 現代において社会福祉が必要とされる理由、またその理解の促進が必要な理由はどのようなところにあるとお考えですか?

富島教授:まず、高齢化社会の問題があげられます。医療技術の進歩や食生活の改善により、平均寿命が延びていますが、それに伴い認知症の人も増加しています。また多くの高齢者は、若い頃のように過ごすことが難しく、日常生活におけるサポートが必要となっています。高齢化は、福祉の必要性を強く示しています。

さらに、現代社会では多様な価値観が重視され、社会問題もさらに複雑化しています。貧困や不登校、家庭内虐待など、課題や問題(以下、課題)は絶えません。これらの問題に対処するためには、医療や保健の介入も必要ですが、それだけでは不十分です。課題を抱える人々の生活を支え、生活の質の向上を図るには、専門的な知識と技術を持つ福祉の専門家が不可欠です。

つまり、高齢化、貧困、地域コミュニティなど、さまざまな面で福祉の重要性が増しています。これらの課題に対応し、誰もが暮らしやすい社会を築くためには、福祉に対する理解と取り組みの促進が必要ではないでしょうか。

Wel-Fesにおける学生のかかわり方と役割

― 四国学院大学の66年にわたる社会福祉の歴史の中で、周囲や学生たちの社会福祉に対する意識に変化はありますか?

富島教授:大学の教育内容は現代に合わせて変化しているものの、教えるべき本質は昔から変わっていません。しかし、入学してくる学生たちの意識には確実に変化が見られます。

学生は、変化する生活環境や社会環境の中で育ち、それぞれが独自の価値観をもっています。学生の生活状況や文化的背景、さらには社会的背景が変わるにつれて、学生の社会福祉に対する意識も変化していることは強く感じています。

― Wel-Fesでは、学生やその周囲にどのような影響や学びを与えることを期待していますか?

富島教授:Wel-Fesでは、学生たちが人々の生活を充実させるための援助や支援(以下、支援)の必要性をより身近に感じ、理解することを期待しています。それだけではなく、学生を取り巻く家庭や地域社会にも関心を広げ、福祉への関心を高めてもらうことも重要です。

また、本学の教員がもつ知識を地域社会に還元することも重視しています。教員は、学内で福祉教育を行うだけでなく、地域社会に積極的に関わっています。例えば子ども食堂の運営などがあります。このような活動を通じて得た経験や知識を地域社会に還元し、Wel-Fesを通じて社会全体の福祉に対する意識を高めることを目指しています。

― 学生の方々は、Wel-Fesにどのようなかたちで関わっているのでしょうか?

若者広場で、集まろう!

富島教授:Wel-Fesで実施している福祉体験プログラムの一つに、「若者広場で、集まろう!」(以下、「若者広場」)という企画があり、学生が中心になって企画運営を行いました。

大学進学を検討している高校生は、大学での友達づくりや大学生活への適応など、新たな環境でうまくやっていけるかという不安を抱えていることがあります。このような悩みに対し、年齢が近い学生のアドバイスは非常に有効です。そのためこの企画では、進路などについて悩みをもつ高校生と現役の大学生が直接対話できる機会を設けました。

今後は、学生主体の企画をさらに拡大していく予定です。本学の子ども福祉メジャーでは、学生が2~3ヶ月かけて作り上げる「こどもひろば」というイベントを、20年近く開催しています。Wel-Fesは今年2年目を迎えたばかりですが、将来的には「こどもひろば」のように学生と教員が一緒になってさまざまなイベントを行えるようになることを目指しています。

Wel-Fesにおける企画や工夫について

― Wel-Fesでは、どのような企画を実施されているのでしょうか?

北川准教授:先ほど富島教授が触れた「若者広場」の他にも、参加しやすいゲームや少人数での座談会、新しい知識を得るための「市民講座」、演劇のワークショップなどを実施しました。

富島教授:看護師や警察官、弁護士などの仕事は誰もが知るところですが、ソーシャルワーカーの仕事は、あまり知られていません。そこでWel-Fesでは、ソーシャルワーカーがどのような場所でどのような仕事をしているのかを具体的に理解してもらうための工夫を取り入れました。

例えば、「ドラマで学ぶ楽しい手話教室」では、手話の重要性や聴覚障がいのある人への支援方法を紹介しました。また、座談会では、身体障がいがある人の生活やサポートについて、現場で働いているソーシャルワーカーから直接話を聞く機会を設けました。

福祉が必要な人というと、高齢者や身体障がい者の人が思い浮かぶかもしれませんが、実際には福祉の支援を必要とする人が多くいます。Wel-Fesでは、ソーシャルワーカーの仕事の重要性について、書籍やテレビだけではなく、現場の話や体験を通じて理解してもらうための仕掛けを試みています。

― ソーシャルワーカーの仕事を伝えるための仕掛けについて、詳しく教えてください。

富島教授:例えば、先ほど北川准教授が紹介した企画の一つに「演劇」があります。
ソーシャルワークの根底には人との関わりといった要素があります。だからこそ「福祉を利用する人々がどのような気持ちを抱えているのか」「どのような悩みが解消されたのか」を理解することが非常に重要です。

さらに、福祉を利用する人だけでなく、支援する側の人の視点を点検する必要があります。単に「困っているから助ける」という考え方ではなく、「どのように支援してほしいか」を理解し、福祉に取り組むことが重要です。

つまり、支援は一方的なものではなく、どのように向き合うべきかという視点が重要だということです。一見すると演劇と福祉は結びつかないように思えますが、参加者は、即興劇を通じてこの観点を実際に体験することができるのです。

― 即興劇では、特にどのようなことを学んでほしいと考えていますか?

北川准教授:私たちが「インプロ」と呼んでいる即興劇には、台本が用意されていません。実際の人間関係は予期しない出来事の連続であることから、AIでは対応できない人と人との関わりを体験してもらうことが、即興劇における目的の一つです。

富島教授:参加者が福祉についてどれだけ知っているか、ソーシャルワーカーについてどのくらい理解しているかによって、私たちの伝え方も変わります。このように、相手に合わせたコミュニケーションを図ることは非常に大切です。

福祉の現場でも、相手の様子を見て自分の価値観を押し付けるような支援は良い結果につながりません。「このような場面ではどう対応しますか?」「この状況ではどのような気持ちを抱きますか?」という問いを通じて、自分の気持ちを把握し、支援を受ける側と提供する側の双方を理解するには、即興劇が非常に有効です。

このように自分の感じ方や技量を知ることは、相手へのサービスの質を高めるためにも重要なのです。SNSなどの普及により、相手の気持ちに直接寄り添ったり触れたりする機会が減っているなか、即興劇は相手の気持ちを考えることを改めて考える良い機会となります。

ただし、支援を求められた際は、単に「寄り添う」のではなく「向き合う」ことが必要です。他人事として何かをしてあげるのではなく、自分たちの問題として真剣に向き合い、共に解決策を考えられることが、ソーシャルワーカーに求められます。

四国学院大学は、現場・実践・人を大切にする教育を伝統としており、長年にわたってこのような教育方針に基づき取り組んでいます。

今年度のWEl-Fesの様子

― 先日、今年度のWel-Fesが開催されましたが、お二人はどのような感触や感想をもたれましたか?

北川准教授:第2回目となった今年は、事前に高校生約70人の参加が予定されていましたが、実際は高校生だけでなく、卒業生や一般の方も30人から40人ほど参加してくださいました。

座談会には高校生だけでなくさまざまな立場の人々が参加し、私たちが目指しているWel-Fesの目的に近づけたのではないかと感じています。「若者広場」にも多くの学生が参加し、非常に活気に満ちた雰囲気でした。

富島教授:「若者広場」には、まだ進路を決めかねている生徒や、就職を考えている生徒など、多くの高校生が参加してくれました。

後日、高校の進路指導を担当する先生からメールを頂いたのですが、大学生との会話を通じて福祉に関心を持った生徒や、大学進学を考えるようになった生徒もいたそうです。また、このような高校生の変化が先生方にも刺激を与えたということで、大変うれしく思っています。

市民講座では、フィンランドの福祉や超少子社会などをテーマに教科書には載っていない裏話や体験談を含んだ講義をしました。参加者からは、新しい知識を得られて面白かったとの声が多く聞かれました。

また、インプロではイベント参加者と障がいのある人たちが即興劇を行いました。インプロの場を通じて実際に障がい者の人たちと交流し、理解を深められたことは、Wel-Fes本来の目的にもかなっていたのではないかと思っています。

Wel-Fesおよび社会福祉学部の役割

― Wel-Fesを通じて自己理解や他者理解を促進するという目的を立てられたことには、何かきっかけがあつたのでしょうか?

富島教授:実は、私は精神科のソーシャルワーカーとして25年間、精神科病院に勤務していました。その経験を通じ、精神疾患がある人たちは『おしゃべりでお人好し』という印象をもっています。

精神疾患は統合失調症やうつ病、依存症、ノイローゼなど多岐にわたりますが、例として統合失調症を挙げてみましょう。学生に統合失調症の人々にどのようなイメージがあるかと尋ねると、「怖い」「暗い」といった答えが返ってきます。これはおそらく、社会全般のイメージとも一致しているのではないでしょうか。

しかし、実際に統合失調症の人と過ごした経験のある人は、同じように感じているのでしょうか? 先ほどお話ししたとおり、私の25年間の経験からは、そうは感じられません。病気の重さや薬による影響、閉鎖的な環境によるイメージやメディアから得られる印象が、実際の人々の姿とは異なる認識を与えています。それらが鵜呑みにされている現状は、決して良いとは言えません。

このような誤解を解消するためにも、インプロなどを通じて当事者の人たちと直接接する機会を提供し、疾患や障害を抱えて生きることを理解し、自身の中にある差別心や偏見に気付くことが重要です。そして、ソーシャルワーカーの役割や福祉が身近にあることの意味を理解してもらえることを願っています。

― メディアやSNSの情報が溢れている現代において、大学としてどのような役割を感じられていますか?

富島教授:例えば最近では、いわゆる「トー横キッズ」の間でオーバードーズ(薬の過剰摂取)が流行しているというニュースが話題となりました。このような報道を受けると、一般的には「薬は怖い」「犯罪に繋がる」という印象を持つことが多いでしょう。

しかし、ソーシャルワーカーは「なぜそのような行動に至ったのか」「何か辛いことがあるのではないか」「異なる価値観を見つけられなかったのだろうか」といったように、当事者と社会を結びつけながら、必要な支援を考える立場となります。中には、ニュースに出ている若者と直接話してみたいと思っているソーシャルワーカーもいるのではないでしょうか。

支援される側の人や状況を遠くから見るのではなく、当事者と接し、自分ごととして考える機会を提供することも大学の役割と考えています。福祉を学んでも、精神病に対する誤解をもったままでは意味がありません。確かな知識を学んだうえで、福祉を通じて社会に貢献することの重要性を理解してほしいと思っています。

大学には、人材を育成する責務があります。社会福祉を学ぼうとする学生が減少している現状があるだけに、Wel-Fesのような体験型のイベントを通じて福祉に興味と関心を抱いてもらう機会を提供することはとても大切なことだと考えています。

今後の展望について

― Wel-Fesおよび貴学の今後の展望について教えてください。

富島教授:私たちは、本学が中心となり、市民が興味をもって楽しく福祉を学ぶ機会を提供することを目指しています。将来的には、大学が地域福祉のマネジメントを担い、さまざまな団体や市民と連携してWel-Fesなどの活動をさらに拡大していきたいと思います。

現在、Wel-Fes以外にも、社会福祉協議会や、事業所が開催する福祉イベント、県が行うメンタルヘルスの啓発イベントなど、さまざまな活動が行われています。これらの活動は、SDGsの目標「すべての人に健康と福祉を」に貢献していると考えます。高齢者、障がい者、子どもを含む地域全体を巻き込んだ福祉の促進活動を行うには、大学は最適な場所の一つだと思っています。

社会福祉学部長として、今後は地域の人々が福祉について考える場を提供し、多くの方々が参加できる環境を整えていきたいと考えています。