SDGs 大学プロジェクト × Yokohama City Univ. -Part 4-

横浜市立大学の紹介

横浜市立大学は、神奈川県横浜市に位置する緑豊かなキャンパスを有し、開国の地である横浜にふさわしい、開放的な学風が魅力の公立大学です。

2028年に創立100周年を迎えるこの大学は、国際教養学部、国際商学部、理学部、データサイエンス学部、医学部の5つの学部を擁しています。特に、データサイエンス学部は2018年に首都圏で初めて開設されました。

横浜市立大学は地域との連携にも力を入れており、県内で開催されるプロジェクトやイベントへの参加、地域の課題解決を目指す研究事業、学生によるボランティア活動などが積極的に行われています。また、世界各国の大学や研究所との交流も盛んで、多様な留学プログラムが用意されています。

学生生活においても、様々な部活やサークルの団体が活発に活動しており、学生同士の交流を深めることができます。また、就職活動をはじめとするキャリア支援にも力を入れており、学生の将来の進路に対するサポートも充実しています。

横浜市立大学は、グローバルな視野を持ち、地域に貢献する人材の育成に取り組んでいます。将来に向けて豊かな知識と経験を身につけ、社会で活躍するための力を培うことができる、魅力的な大学です。

産学連携で実践力を養う国際商学部 柴田典子ゼミ(マーケティング論)の取り組み

― 現在、柴田先生のゼミではどのような研究をされていますか?

柴田典子先生(以下、柴田先生):私が担当しているゼミでは、マーケティングを専門に学んでいます。マーケティングとは、企業が市場に対して直接的に働きかける活動全般を指します。多岐にわたる領域の中でも、特に消費者行動論とブランド論に焦点を当てて取り組んでいます。

具体的には、消費者を対象としたインタビューなどの定性的な手法や、アンケート調査を用いた定量的な分析を通じて、消費者の理解を深めるための分析スキルを養います。また、これらの学びと理論を活かし、実際の企業と協力してマーケティング戦略を策定し、その効果を検証する実践的な取り組みも行っています。

― 柴田先生のゼミには、どのような学生が所属されているのでしょうか?

柴田先生:私のゼミには、広告やプロモーションに興味を持ち、それらの知識を深めたいと考えている学生や、自分自身で商品やサービスを創り出す仕事に関心を持っている学生が多く集まっています。

本学の国際商学部では、2年生の後半から本格的なゼミ活動が始まりますが、ゼミの選考は1年生の終盤から行われます。そのため、比較的早い段階で自らの専門領域について考える必要がありますが、具体的な将来の目標がまだ定まっていない学生も少なくありません。

そうした学生の中には、先輩からゼミ活動について話を聞いて「自分もこんな3年生や4年生になりたい」と思ったり、産学連携活動に取り組む上級生の姿を見ることで興味を持ち、ゼミに入るケースも多いようです。

株式会社ローソンとの共同で実現した「新しい学食体験」

― 今年5月には、株式会社ローソンと共同で「新しい学食体験」として、貴学の大学生協食堂でローソンの人気商品Lチキを販売されていました。柴田ゼミの学生の皆さんが、その販売におけるプロモーション戦略に取り組まれたと伺っています。この取り組みの経緯や目的について教えてください。

柴田先生:この取り組みのきっかけは、本学の横浜市立大学生活協同組合(以下、生協)が、ローソンさんが実施していた賞味期限の近い「ソースin Lチキ餃子味」の無償提供に応募し、運良く当選したことでした。

私は生協の理事長を務めているため、この応募については以前から把握していましたが、当選枠が10枠のみということもあり、まさか当たるとは考えもしなかったです。そのため、2024年1月に生協の専務から当選の連絡を受けた際は、非常に驚いたことを覚えています。

本企画におけるローソンさんの目的は、「企業の食品ロス削減対策の一環」および「学校給食や事業者への支援」にあります。Lチキは単独でも非常に高い商品力を持っていますが、この目的について改めて考えるうちに、ただLチキを提供するだけでは、その意義を十分に引き出せないのではないかと感じるようになりました。

そこで生協の専務と相談しながら、この機会を大学生の学びの機会として活かし、多くの学内関係者に還元できる方法を模索しました。その中で、ローソンさんの目的や背景について消費者に知ってもらい、学生や教職員を含む生協の利用者にとって価値のある形でプロモーションを行えないかと考えました。

私のゼミではマーケティングを中心に学びを深めていますが、SDGsや食品ロス削減に興味を持つ学生も多く在籍していることから、プロモーションの全てをゼミ生が考え、実践することになりました。

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学食×Lチキのひみつ (横浜市立大学 柴田ゼミInstagram)

― では、当初はこのようなコラボ企画につながるとは想定されていなかったのでしょうか?

柴田先生:当初、このようなコラボレーションが実現するとは、本学もローソンさんも予想していなかったと思います。今年4月にローソンさんがゼミ生のプレゼンテーションをご覧になった際、他の選事業者や子ども食堂・大学食堂などは、学生がプロモーションに関与する事例はないと伺いました。本学での取り組みが初の試みであったようです。

学生の創意工夫が光る、Lチキプロモーションの裏側

― このような機会を受け、学生の皆さんは具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか?

柴田先生:このプロジェクトは、2024年2月中旬から4月初旬の期間中、現3年生15名が3つのチームに分かれ、春休みのグループ課題として取り組みました。

各チームは、プロモーション戦略の内容に加え、ポスターやPOP、動画、SNSなどのクリエイティブ案を制作し、それらの展開計画なども策定しました。そして4月10日には、生協、ローソンさん、およびローソンさんがご紹介くださったこども家庭庁の方々に向けて、各チームがプレゼンテーションを行いました。

発表内容はそれぞれ個性豊かで興味深いものでした。そこで、一つのグループの計画を採用するのではなく、本学の特性に適した施策案や具体的で明確な施策案を各グループからピックアップし、実施することに決めました。

私と生協の専務が全体の調整を行い、学内の掲示物、動画、SNSなどの担当を各学生グループに割り振って進めていきました。実施するプロモーション施策が多岐にわたったため、特にプロジェクト初期は全体の調整作業が大変でした。

― 学生間の連携や苦労した点など、印象に残っているポイントはありますか?

柴田先生:プロジェクトの初期段階では、学生たちはどのような方向性で何を考えるべきか、またプロモーションにおいて何が求められているのかについて、深く悩んでいました。

生協やLチキのプロモーションをただ作るのではなく、何を伝えたいのか、何を訴求すべきかを考えるのに時間をかけていた姿が印象的でした。特に、食品ロス削減という社会的な側面を強調するべきか、それともSDGsに関連する訴求は控え、商品の魅力を最大限に引き出すべきかについては、全員が真剣に議論していました。まずは、学内の学生にインタビューを行い、プロモーションの方向性を探るためのインサイトを収集しました。得られたインサイトを基に、プロモーションを進めていくことにしました。

私のゼミでは、このような事前調査のプロセスも重要視しています。主要ターゲットである他の学生の意見を聞き、自分たちの考えを客観的に検証することはとても重要です。調査結果に基づいて仮説を立てるプロセスには、しっかりと取り組んでもらいました。

マーケティングの戦略策定は課題解決プロセスそのものであり、発想力だけでなく論理性を持って進めていくことが大切です。今回のLチキのプロモーションにおいても、学生たちは私が提示したテーマに対して「課題解決:施策立案」と「実行」にフォーカスし、約3ヶ月の短期間で取り組みました。

また、先ほど実施するプロモーション施策数が多くて大変だったとお話ししましたが、各タスクを可視化したプロモーションのスケジュールシートを作成し、担当やステータス、掲出時期などを細かく管理していました。

ローソンさんの名前やLチキの画像を使用する際は、すべてローソンさんの事前チェックを受ける必要があります。場合によっては修正しながら進める必要があり、スケジュール管理が比較的大変だったこともエピソードの一つですね。

― 実際にLチキの販売が始まってからは、周囲からどのような反応がありましたか?

柴田先生:学生たちの声は、「美味しそうだから買った」「安かったから買った」という声が最も多かったですね。今後、Lチキ販売の認知度などについて事後調査も行う予定で、現在その準備を進めています。

しかし、生協のサービスを学内にプロモーションするのは非常に難しいことです。大学の生協は学内市場のみが対象となるため、アプローチしやすい面もありますが、大学直下の部門ではないため、学生や教職員に情報を届ける手段が限られています。そこで、今回は場所ごとに異なるポスターを多く掲示したり、早い段階からSNSを展開してコンタクトポイントを増やしたりと、学生たちは良い施策を模索して頑張りました。その結果、普段は生協の情報に気づかない方々の目にも留まっていたようです。

一方で、教職員などの世代からは「SDGsや食品ロス削減対策の一環だときちんと訴えかけなければ、意識づけや啓発にはつながらないのではないか?」という意見もありました。しかし、現代の学生にとっては、SDGsは当たり前の概念として根付いています。彼らは義務教育の頃からSDGsについて学ぶ機会があり、周囲にはSDGsに関する学生団体も増えています。したがって、SDGsを強調しすぎると押し付けがましく感じられ、共感を得られないこともあります。そのため、私たちは自然な形で食品ロス削減に取り組むことが重要だと考え、販促物ではSDGs要素を大きく打ち出さないことにしました。

結果として、大人たちの中にはプロモーションとのギャップを感じた方もいたようですが、学生にとっては自然な形で取り組みを受け入れてもらえました。主要なターゲットの学生たちに響く内容で訴求したことで、狙い通りの良い反応を得ることができたと感じています。

マーケティング戦略とSDGs・環境問題の関係性

― 柴田先生は、マーケティングやブランディングとSDGs・環境問題の関係性や変化について、どのように捉えられていますか?

柴田先生:確固たる根拠はありませんが、まず、SDGsにいち早く取り組み、それを継続的に実施しているのは大企業ですよね。大企業は体力があり、専門部署を設けることもできるため、業界全体をリードしている存在です。そして、このような大企業の取り組みを中小企業や少人数の企業が模倣できる仕組みが形成され、SDGsに繋がるエコシステムが構築されていくことが望ましいと思います。

最近ではSDGsや環境問題への取り組みが増えていますが、中小企業や小規模な企業が持続的に取り組むのはまだ難しいことだと感じています。だからこそ、今は試行錯誤しながら時間をかけて継続的に取り組むことが重要ではないでしょうか。

学術的に言えば、ソーシャルマーケティングの考え方は1970年代から提唱されており、新しいものではありません。ただし、考え方自体は変化してきています。以前は「社会にとって良いことを企業の利益につなげるなんて何事だ」という価値観がありました。しかし、その考え方だけでは、多くの企業が持続的に取り組むことはできません。持続させるためには、企業の利益や経済的な価値を生み出すことが必要です。

近年ではCSV(Creating Shared Value)*1の考え方が広がり、社会的な価値と経済的な価値の両立を追求することが持続的な活動には重要だという共通認識が得られました。これにより、各社がさまざまな取り組みを始める良い契機になったのではないでしょうか。

一方で、消費者も変わってきています。例えば今の大学生などの若い世代は、就職活動で企業を選ぶ際に、「この企業はSDGs的な活動をしているか」という視点を持っています。他の世代でも、商業的な匂いが強すぎると嫌だとか、押し付けがましいと感じることがあるのではないでしょうか。 また、SDGsや環境問題に貢献することが重要だと理解していても、それを押し付けられたり、わざとらしく感じたりすると、消費者は拒否感を持ってしまいます。

この関係性はブランディングにも関連しており、国内外で研究が進んでいるテーマです。 消費者の受け止め方も変わってきているということは、ソーシャルマーケティングを単に行うのではなく、その変化にも向き合う必要があることを示しています。「環境に良い」「地球に良い」というだけでは、もはや差別化にはなりません。今の消費者は、SDGsや環境問題が大切だとしても、自分にとってベネフィット*2が感じられなければ対価を支払おうとは思いません。

マーケティングの重要な役割は、価値をわかりやすく伝えることです。SDGsや環境技術関連の価値提供も、まさにマーケティングの役割であると思います。

*1 CSV(Creating Shared Value):企業がビジネス活動を通じて社会問題を解決し、それによって自らも経済的な利益を得るという考え方。単に利益を追求するだけでなく、社会全体の利益にも寄与する方法で事業を展開すること。

*2 ベネフィット:商品やサービスを利用することで得られる利益や恩恵のこと。

今後の展望

― 今後の展望を教えてください。

柴田先生:例えば、食品ロス削減や環境配慮型の商品について、多くの方がその重要性を理解している一方で、実際にそれらの商品に対してお金を払うかどうかとなると、必ずしもそうではありません。この意識と行動のギャップをどのように克服するかは、現在もさまざまな場面で議論されています。

今回のLチキのプロモーションでは、学生たちもこの点について深く考えました。押し付けられていると感じさせない訴求方法や、SDGsを前面に出さずに意図や目的を正確に伝える手法など、どうすれば人々の意識や知識が行動につながるのかを模索する難しさを感じる機会になったと思います。今後もマーケティングの観点から、どのように取り組んでいくべきかを学生たちと一緒に考えていきたいです。

この取り組みの難しさは、学生たちがマーケティングや消費者行動を学んでいる一方で、環境問題やSDGsを専門に研究しているわけではないという点です。啓発活動の重要性を認識していても、それに対してマーケティング的なアプローチが必ず成立するかというと難しいところです。SDGsや環境問題に対して、マーケティングがどのように貢献できるかは非常に難解なテーマですが、今後の活動においても重要な視点であると感じています。

私は、マーケティングとは消費を楽しくするものだと思っています。SDGsや環境問題を極端に突き詰めると、パッケージは極力簡素にし、プラスチックを使わず、全てを削ぎ落とす方向に進んでしまうかもしれません。
しかし、マーケティングは消費者に価値を提供し、人々の生活に彩りを与えるものだと考えています。もっと人々の生活を豊かに、感情を豊かにし、消費プロセスを楽しめるような取り組みを、様々な観点から考えていきたいです。