
お金の知恵を学ぶ:青山学院大学 佐藤綾野教授に聞く
佐藤綾野 教授の経歴について
早稲田大学大学院 経済学研究科 博士課程単位取得済 退学、博士(経済学)。
新潟産業大学、高崎経済大学を経て現職。
2017年 ~ 2018年コロンビア大学 日本経済経営研究所 客員研究員、
2021年~郵政民営化委員。
専門は、国際金融、経済政策。
おかねを学ぶ
ーお金を学ぶというテーマで、大学では勉強しづらいお金の情報や大学生・新社会人のうちにやっておくといいことを教えてください。
18歳以上の有権者には、正しい経済の知識をできるだけ身につけてほしいなと経済の教員の1人として思っています。18歳以上になると選挙権があります。経済について勉強し経済政策を知ることによって、マスコミや政治家がいうことが本当に正しいのかどうかがわかるようになると、こうしてもらいたい、こうするのが正しいんだと自分で考えられるようになります。正しい知識に基づいた判断が投票行動に繋がっていけば、日本経済を良くできるんじゃないかなと私は思っています。
ーお金だけじゃなくて、そのお金の仕組みを決めている経済の部分ってことですね。
そうですね。
経済学にはミクロ経済学とマクロ経済学があります。ミクロ経済学にあたる部分、自分自身が今どのくらい消費して、将来までにどのくらい貯蓄するかという行動は自分で決められますよね。
一方でマクロ経済学にあたる部分、経済社会全体に関して個人で決められる部分は少ないですが、お給料をもっとたくさんもらおうと思ったら経済全体が良くないとどうしても給料は上がらないんです。
だから、経済が全体的に良くなるような政策を持っている政党にちゃんと投票をして日本経済を少しずつ良くできるといいんじゃないかなと思います。
1人1人の力は大きいものではないですが、社会全体が良くなれば経済全体だって良くなるし、 結果としてそれは好循環となって最後に自分に返ってきます。
おかねを納める・備える
ーお金を納める・備えるというテーマで、税金や保険に関して知っておくべきことを教えてください。
まず社会人になって給与所得者という形になったら、公的な年金や健康保険は自動的に差し引かれるので、手取りの金額(実際に振り込まれる支給額)しか見ない人も多いと思います。
見なくてもそれはそれである程度は生きていけると思いますが、 私は国民全員が納税者意識をきちんと持ってもらいたいです。自分の手取り金額だけではなくて、どのくらい社会保障のためにお金を払っているのかを見てもらいたい。
いざ見てみると所得税、住民税、厚生年金、雇用保険など、多くの項目にわたってお金を国に納めていることがわかると思います。合計すると結構な額になっていて、これだけ多くのお金を納めているのであれば、その分政府には賢く使ってもらいたいと思いますよね。だからこそ、きちんとした経済政策を持っている政党を自分で選んで投票するというところへ最終的には繋げてもらいたいと思っています。
ーそれが、先ほどの経済を知るという部分に重なってくるところですね。
そうですね。
例えば、私たちは厚生年金や国民健康保険として結構な金額を国に納めていますが、たくさん納めている割には将来年金だけでは食べていけなくなると言われています。若い人は特にそれが本当にそうなのか、あるいはどうしてそうなってしまうのかなどいろいろなことを考えた方がいいと思います。
医療保険も同じで、特に若い人はあまり具合が悪くなることがないから払っているお金の方が多いと思います。保険というのは病気の人が少なくて健康な人がたくさんいる場合に成り立つシステムです。その仕組みから考えると、自分たちが年を取って病気になったときに納めた分がもらえるはずですよね。そこで、若い世代が年を取った時まで本当に今の日本の医療保険が制度として維持できるのかを考えてみるとどうでしょうか。そうすると私たちにとって、国の政策として無駄なもの、必要なものが見えてくるのではないでしょうか。
新社会人の方は仕事などで忙しくて、こういったことを勉強する時間はなかなか取れないかと思いますが、 ぜひ自分の給料明細で手取り額以外の項目も見てみてください。どうしてこんなに引かれているんだろうと気づくと思います。
最終的に手取りとして貰える金額は、収入にもよりますが、企業が私たちに支払った金額(額面額、総支給額)の3割 ~ 5割は税金や保険料などとして引かれています。そういったところも考えると払うのは仕方ないにしても、政府にはしっかり使ってもらいたいですよね。そういうのを1人1人が考えて投票行動に繋がっていければいいのになと思っています。
しくみを活かす・おかねを増やす
ーしくみを活かす・お金を増やすというテーマに関して、ニュース等で投資や資金運用が連日取り上げられていますが、お金を増やしていきたい、将来の不安を減らしたい場合はどうしていくのがいいんでしょうか?
何年か前に「老後2000万円問題」という話題が出て、結構大騒ぎになりました。 金融庁が老後は年金だけでは足りないから年金以外で2000万円必要になるという報告書を発表したのですが、国民の中には年金だけで老後は生活できると思っていた人が多かったのかもしれません。
この件は、人それぞれ前提条件が違うので、「老後2000万円問題」という言葉が一人歩きしてしまったように思います。つまり、 家族の形からお金の使い方まで、ライフスタイルは人それぞれなので、誰でも2000万円が老後の必要と言われたら、それは違うのかなと思います。
▼老後資金2000万円問題 について 「老後資金2000万円問題」最新データで再計算してみた、あなたに必要な額は?
年金の金額に関しても、人によって違います。日本の年金制度は3階建てなどと言われますが、個人で仕事をしているフリーランスの人は1階建て部分の国民年金だけしか支給されませんが、サラリーマンのように企業に勤める人は2階建ての厚生年金となるので、国民年金よりも多いです。また大企業などに勤める会社員は3階建て部分の企業年金も用意されている場合もあるので、企業年金の一番高い人と国民年金しかない人との間にはおそらく月の年金支給額として30万円以上の差があるかもしれません。一般論で一概には言えないからこそ、まずは自分の年金がどのくらいなのかを確認することが大切です。
また、自分の現役時代のライフスタイルを老後も維持するためには、通常手取り所得の2~3割ぐらいは貯蓄しておけと言われています。所得のうちの2~3割ぐらいを預貯金としてまずは貯めて、貯めた上で今度はどう運用するかというのも、人それぞれになります。
運用の方法は、リスク回避度の違いで決めます。個人のリスク回避はそれぞれ違うので、自分がハイリスク・ハイリターンを好むのか、ローリスク・ローリターン を好むのかを見極めて決めていきましょう。
ローリスク・ローリターンは預貯金でコツコツ貯めることが例として挙げられますが、元本は保証されていてリスクが少ない分、今は金利がつかないからリターンも少ない。
ハイリスク・ハイリターンはすごく儲かるかもしれないハイリターンである反面、自分で投資した元本も戻ってこないかもしれないのでリスクも高い。
このように、ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンという言葉は経済学では絶対に成り立っています。どちらがおすすめというよりは、個人によって違うので自分の好みや自分の性格、いろいろなものを考えて自分で決めることが大事です。
ただ、絶対リスクを取りたくないという人でもiDeCoはおすすめです。
iDeCoには、いろいろな商品がありますが、その中にはほとんどノーリスク、元本保証がある商品もあります。これはほとんど貯金と同じですが、その分税金が安くなって節税に繋がるので、手数料がとられて一定年齢まで引き出せませんが、普通に預貯金するよりもiDeCoで預貯金する方がお得です。
NISAを含めて株式投資は、ハイリスク・ハイリターンを求める人向けです。リスクやリターンは売買する銘柄にもよりますが、預貯金に比べればどの銘柄も明らかにハイリスク・ハイリターンであると言えるでしょう。それを認識したうえで、もう少しリスクを取ってもいいんじゃないかと思ったらNISAはおすすめです。ただし、NISAは投資金額に上限があるので、その上限額を越えた投資に対しては税金がかかってくることに注意が必要です。
まとめると、若い時から積み立てるのはすごく大事なので貯めるならiDeCoは全員におすすめですが、株式投資、FXや暗号資産は好みになるのでやるのであればリスクがあるということを承知の上でやるのがいいと私は思います。
最後にしつこいかもしれませんが、若いうちからコツコツと貯めることは、複利効果があるのでいいですね。
先生からのメッセージ
ーこれから自分で勉強する時に、どこから情報を取ってきて、どう活用していくのがいいでしょうか?
まずは、私は興味を持つことだと思います。興味をもつとそれについて調べると思いますが、難しいことも多いのですぐにわかるとは私も思わないです。そこは根気強く少しずつ調べていくといいんじゃないかなと思います。
実際に私が1年間授業をしていて感じるのは、1年間で伝えられることは本当に少ないし、授業でちゃんと聞いていたとしても伝えきれていないことはたくさんあると思っているから、やっぱりどこかで自分で勉強してもらわないとダメなんだということ。
その時にちょっとわからないからって諦めないで、楽しんで少しずつ勉強して1年、3年、5年と長い時間をかけて、だんだん経済の仕組みをわかってくれればいいなと思いますね。
どうやって勉強するかっていうことに関しては、ニュースに触れてわからない専門用語を調べることですね。経済用語は難しい言葉が多いので、日本語で書いているといってもわからない言葉が多いと結局文章全体が理解できなくなってしまいます。そのため、1つ1つの単語を根気強く調べていくと、だんだんわかってくると思います。
社会人になったばかりだと仕事や遊びで忙しいとは思いますが、10分でも20分でもいいので興味を持ったことに対して少しずつ継続して勉強を積み重ねていってもらいたいなと思います。
お金と同じで知識も積み立てていくことがコツですね。
▼取材にご協力いただいた佐藤綾野 教授のHPはこちら 佐藤 綾野 | 青山学院大学 教員情報