根岸先生に聞く 電気工学から見るこれからの電力市場

スマホや照明…皆さんの身近な電気。

そんな身近な電気の発展について研究されている神奈川大学の根岸先生に、電気工学についてや電力自由化、エネルギー市場など電気に関するお話を伺いました。

▼話を伺った先生

神奈川大学 工学部 電気電子情報工学科
根岸 信太郎先生
根岸先生についてはこちら:「研究者情報」 「根岸研究室 」 「reseach map

※この記事は2022年11月のインタビュー情報です。

再生可能エネルギーが活用されるようになってきている

──再生可能エネルギーについて、これからどうなっていくと考えていますか。

世界的に、「カーボンニュートラルを達成しよう」「CO2の排出量を0にしよう」という方向に向かっているのは確かですが、電力の安定供給を維持できる範囲内で最大限活用されると考えています。

──実際に日本でも活用されているんでしょうか?

そうですね。日本の太陽光の導入量って、世界3位だったりしますし、九州電力だと昼間の時間、太陽光が1番発電する時間帯だと、大体9割ぐらいは供給している時間もあります。

──そうなんですね!全く知らなかったです。

東京電力とかだと需要も大きいので、太陽光が9割という状況にはまだなっていないのですが、それでも結構大きな量が入ってきている状態になってます。

電力自由化で多くの選択が取れるようになった

──電力自由化について、どう思われますか。
電力の小売事業者が入ってきて、非常に多くの選択肢が取れるような状態にはなってるのか
なと思ってます。
色んな電気の小売事業者が入ってきて、様々なプランから自分のニーズに合った電力会社を
選べるようになったこと、一般電気事業者も規制料金以外の料金プランを出せるようになっ
たので、そこが自由化のメリットだと思います。

──そうですね、電力自由化で好きな電力会社を選べるようになりましたね。
ただ、電気だけだと単純な値下げ競争ですよね。
それだと、大口の取引ができるような、相対取引で長期で安い電力を買えるような事業者が
勝ち残る結末になってしまうので、

携帯会社だったら、電気代と通信料との抱き合わせでサービスを展開するとか、各社が提供
している他のサービスと一緒にして、値引きであったりとか、ポイント還元であったりの付
加価値で差別化を図っていくのが必要なフェーズだなと感じています。

電気代が上がったのは市場の影響が大きい

──電気料金高騰については、どう思われますか。
今電気料金が上がるのは、ロシア関係で電気の原料になる燃料代自体が、上がっている状況なので仕方ない状態だと思っています。

──なるほど。ちなみに、その輸入で補っているエネルギーを、再生可能エネルギーなどで補
うみことは可能なのでしょうか?
太陽光発電は爆発的に増えてはいますが、今すぐというのは難しいところではありますね。例えば、今すぐここの土地全部を太陽光発電、洋上風力発電にしましょうとかは難しいじゃないですか。

ただ、計画的に長期的な視野を立てて再生可能エネルギーをどんどん増やして、火力発電への依存度を下げられれば、外部要因で電気料金が値動きすることを小さくできるかもしれないですね。

──火力発電の依存度を下げられるのは、結構先の話になるんですかね。
国が「2030年にCO2排出量を実質46%削減しましょう」という目標を立てているので、そこに達するためには、もう少し再生可能エネルギーを入れつつCO2を回収する技術の整備を急がなくてはならないので、順調に進んでいくのではないでしょうか。

──再生可能エネルギーを使用するとCO2排出量を減らせるんですね。
そうですね。石油石炭などに比べると、太陽光発電や風力発電、小水力発電、地熱はCO2排出量が圧倒的に少ないです。

──そうなんですね。知らなかったです!
そうですか。そもそも石油や石炭には炭素が入ってますからね。

電気工学を学んでいたことで社会課題の解決に貢献

──電気工学を学んでて良かったなと思う事はありますか。

電気工学、特に電力システム工学は他の研究分野とちょっと違って、社会課題に直接アプローチできるのが面白いなあと思ってます。

──なるほど。社会の役に立つものをどんどん出せますもんね。

この分野を専門に扱えるのは、学部で電気工学や情報工学を勉強してたからだと考えています。

それらを組み合わせて社会課題に直接アプローチして解決できることがあると、勉強しててよかったなって思いますね。

電気工学で世の中のシミュレーションができる

──ただ、電気工学って幅広いですよね。

そうですね。

電気工学の中でもジャンルが結構分かれていて、発電機の設計をやる人たちがいたり、送電総電線そのものを研究してる人たちもいます。

電気工学の中でもジャンルが結構結構分かれてて、発電機の設計をやる人たちがいたり、送電線そのものをどういう風に送ったらいいかなっていう研究してる人たちもいます。

──根岸先生は経済シミュレーション技術も研究してると拝見したんですけど、それはどういった研究なのですか。

例えば、車を例えば設計する時って、あの車の実物の車を作って変えていくことはしなくて、コンピューターの中に3Dの車のモデルを作って、事前に色々とシミュレーションできるんですよね。

それに似たようなことを、電力システムでもやってます。

──へー!凄いですね。

電力システムだと、例えば制度を変えたいとか、極端な話、再生エネルギーを100%にしたらどういう世界になるだろうとかを、実際に作って確かめることはお金もかかるし無理じゃないですか。

それをコンピュータで再現した時に、「どういう運用方法になるのかな」とか、 「CO2の排出量はどうなるのかな」っていうのを事前に計算できるシュミレータを作っています。

──そんなことできるんですね!

そうなんです。カーボンニュートラルを実現するなら、そこまでどういう道筋でシステムを変えていけばいいのか、電力の供給を変えていけばいいのかなっていうのを確かめられるようなものを作っています。

電気代の値上げの背景についてもっと知ってほしい

──最後に伝えておきたいことがあればお願いします。

燃料費や電気代が上がって、電力会社が結構悪く言われがちだとは思うんですけど、その裏側にどういった事情があって、どういう国際問題と繋がっていて、あるいは自国の課題と繋がっていてってところを考えて、思いをはせて頂ければなと思います。

あとは、今そのような難しい状況の中、頑張って電力の安定供給を維持してくれている電力会社の皆さんに、ちょっとでも感謝を覚えていただければ、すごくいいかなっていう風には思いますね。

──なるほど。今まで使う側の目線でしか見てこなかったので、そういう視点はすごく新鮮です!

電気の市場についてや電気代が高い背景、そして私たちの身近な電気を安心して使えるように日々研究して下さっている方々がいることを考える良い機会となりました。根岸先生、お忙しい中ありがとうございました。