SDGs 大学プロジェクト × Baika Women’s Univ.

梅花女子大学の紹介

梅花女子大学は、前身となる梅花女学校創立以来、2028年で創立150年を迎えます。

女子教育のパイオニアとして、4学部9学科の特色ある多種多様な学びを通し、人と社会、人と世界のあり方を見つめ、自らの可能性と生き方に真摯に向き合う、自立した女性を育成しています。

「BAIKA × 企業」の歩み

今回お話を伺うのは、梅花女子大学(大阪府)を運営する学校法人 梅花学園の常務理事・梅花女子大学企画部長の藤原美紀さんです。

梅花女子大学では「BAIKA × 企業 産学連携プロジェクト」と銘打ち、女子大学生ならではの感性をいかした課題解決型の産学連携を推進。これまでに310を超えるコラボレーションの事例が生まれ、商品開発や地域活性化など多彩な分野で成果を上げてきました。藤原さんは企画部長という立場から、産学連携のコーディネート役を担っています。

産学連携に注力する背景

–梅花女子大学ではどのようなきっかけで産学連携に注力することになったのでしょうか?

本学が現在の形の産学連携に力を入れ始めたのは2011年からです。産学連携には、大学生のうちから企業と接点を持ち、ともにいろいろなアイデアを考え形にすることができるメリットがあります。

梅花女子大学は学生数が約2000人の小規模大学です。本学では、何事にも全ての学生が取り組めることを目標としています。産学連携でも同じく、全学生が取り組んでいます。

自由な発想が生み出すイノベーション

従来の産学連携では、製薬会社と薬学部、またはロボット関連企業と理工学部のように、分野や目標が共通する企業と研究室が協力する例が一般的でした。

そのような背景の中で、本学は女子大学としての特性をいかし、従来の産学連携とは異なるアプローチをスタート時から考えていました。それは、女性の感性をいかし、既存の概念に新たな価値を加え、イノベーションを生み出すという新しい形です。

日本の社会は、高い技術力や、生産性を高めていく段階から、既存の製品に新しい視点を加え、新たな価値を創造することが求められる時代へと変化してきています。

そのためには、固定観念にとらわれない、新しい発想や感性が必要です。本学の特色をいかした形で大学が関与することで、化学反応が生まれ、新しい価値が生み出される可能性があると考えています。

–連携する企業にとっても、従来の価値観をブレイクスルーするような経験や新しい発見につながりそうですね。

多くの企業からは、「ありそうでなかった」と驚きの声を頂戴しており、お互いに触発される要素が多いです。

例えば、高野豆腐メーカー最大手の旭松食品株式会社との連携事例では、学生が新しいレシピを提案しました。社員の方々は高野豆腐について豊富な知識をお持ちですが、当然ながら学生たちはそのような専門知識を持っていませんでした。彼女たちは与えられた課題に対して、伝統的な発想にとらわれず、”高野豆腐をどう活用したらおいしい料理ができるか”ということだけを考えて自由な発想で提案しました。

社員の立場では、高野豆腐は通常、だし汁で戻して使うものだという先入観がありましたが、学生たちの提案には新しいアイデアがあふれていました。例えば、高野豆腐を戻さずにすりおろしたり、だし汁ではなく水で戻してみたりするなど、斬新なアプローチが試みられました。

社員の方々は、学生たちの自由な発想に触れ、自身たちが気付かないうちに既成概念に縛られていたことに気づいたとおっしゃいました。「こんなにわくわくしたのは久しぶりだった」と感慨深い思いを抱かれた方もいらっしゃいました。

もしも一つの会社の中で何かアイデアを出そうとすると、基本的には性別も年齢層も役職もバラバラで、なおかつその業界に精通したメンバーで議論する場合が多いと思います。一方、本学の産学連携では、主に若年層の女性が主体となり、かつその企業に対する専門的な知識を持たないメンバーが集まって議論が行われます。

現在の日本社会において、こうした異なるバックグラウンドを持つコミュニティで意見を交わす機会は稀です。だからこそ、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込みや偏見)にとらわれないイノベーションが生まれる可能性が高まるのではないでしょうか。

異分野コラボは答えのない挑戦

–藤原さんは産学連携プロジェクトを取りまとめる立場にいらっしゃいますが、学生と企業を結ぶ上で意識している点や重要視している点はありますか?

大学側と企業側では異なる価値観や文化があります。極端な例えですが、全然違う言葉で話しているようなものだと思っています。

そのため、最初に企業側が求めるニーズを十分にヒアリングし、私たちが提供できる可能性のあることを説明します。そして、興味深いアイデアが浮かんだ場合、それに適した学科や教員に相談し、適切にマッチングを図っていきます。

答えのないことに挑戦するので、お互いが興味を持ち、共に挑戦したいと思えなければ、革新的な成果は生まれません。具体的な結果が予測できなくても、「おもしろそう」「何か新しい可能性を感じる」とそれぞれの立場で感じていただけるようなプロジェクトをコーディネートすることが、非常に重要であると考えています。

–産学連携に力を入れ始めた当初、周りはどのような反応だったのでしょうか?

従来の枠を超えた産学連携の取り組みは、当初、本学の教員も企業の方々も半信半疑だったのではないかと思います。試行錯誤の連続でしたが、それでも、老舗の寿司店との協業など、未知の道を進む中で私たちは多くの発見を重ねました。

具体的な一例を挙げると、私たちは創業53年の老舗寿司店・株式会社音羽と協力して、新たな市場を開拓しました。この企業は、常連客の高齢化といった課題に直面し、また宅配ピザや出前サービスといった競合も増える中で、クリスマスなどの特別なシーンで寿司の出前を提供する方法を模索していました。産学連携の先行事例が少ない中での提案であり、企業側も大いにリスクを伴う挑戦だったと思います。

学生たちが考案したのは、ホームパーティー向けに特化した手まり寿司の盛り合わせで、SNS映えを意識したデザインを取り入れました。手まり寿司をクリスマスツリーの形にアレンジし、その周囲にはローストビーフなどの総菜や果物を彩りよく盛り付けました。

結果として、最初のクリスマスの時点ですでに申し込みが殺到し、商品は完売。小さな子供を持つ母親たちがママ友の集まりで利用する、あるいは高齢のお客様が孫の帰省時に利用するなど、非常に好評でした。企業側では以前からクリスマスに寿司を取ろうという切り口で宣伝していたそうですが、私たちの新しいアプローチによって売上を伸ばすことができ、学生たちの独創的な発想の意義を実感できたのです。

この連携は今も続いており、同様のクリスマス寿司は7年連続で提供されています。また、音羽では毎月、「福巻の日」を設け、月ごとに身体にいい旬の具材を使用した巻き寿司を考案。2018年から、本学の食文化学科の学生が参画し「福巻の日」の巻き寿司のレシピを考案し商品化されています。最初の1〜2年は年に4回でしたが、2023年からは、毎月レシピを考案できるようになりました。

商品化の際には、調理師の方と学生が試作を行い、アイデアを練り上げます。このプロセスによって、商品の完成度も向上しています。このような持続的な取り組みも、特徴の一つです。

–1回きりで終わらせないからこそ、どんどん密度が増していくのですね。

そうですね。学生からの声として、自身のアイデアが選ばれるかどうかに関わらず、仲間のアイデアが商品化されるだけでも十分なモチベーションになるという意見が多く寄せられています。また、企業側も、学生たちが自社の未来を真剣に考えてくれていることに感謝し、それを受けてより優れた企画を生み出そうという意欲が湧いてくるとのことです。この双方の意気投合が、より質の高いアイデアを生み出す相乗効果につながっているのではないでしょうか。

さらに、企業側、大学側それぞれに従来のアプローチとは異なる幅広いステークホルダーが参加できる機会が広がっています。こうした中で、相互に信頼関係が築かれています。売り上げだけでなく、お互いに持続的な関係を構築し、共に発展するメリットがあることが、非常に重要なポイントとなっています。

成果のアウトプットがつなぐ新たな縁

–JR大阪駅直結の大型複合施設・グランフロント大阪にある産学連携拠点「The Lab.(ザ・ラボ) みんなで世界一研究所」には、梅花女子大学もブースを出展しています。こちらはどのような経緯で出展が決まったのでしょうか?

本学では以前から、学生の研究や学びの成果を集約し、オープンにアウトプットできる場を模索していました。

その中で、2013年4月に開業することが決定していたグランフロント大阪は、技術と感性の融合により、「みんなで世界一研究所(を目指す)」というザ・ラボのコンセプトが、本学の描くビジョンと合致していると確信し、出展を決定いたしました。

通常は学生が制作した絵本の展示が中心となっていますが、ここでは様々なイベントを通じて、協力し合い、コラボレーションの拠点としての役割も果たしております。

この場を通じて生まれた産学連携の事例は数多く存在しており、その一つとして、カー用品などを提供する株式会社オートバックスセブンと連携し、交通安全に関する絵本を制作しました。偶然にも、本学の展示に訪れた社員の方が、その絵本に興味を持ち、ご縁が生まれた結果です。

こうしたアウトプットの場が存在することで、新たな交流が生まれ、学びの幅が一層広がります。学校環境は、内部のみに閉じがちですが、学外との交流を大切にすることで、常に最新の知識やアイデアがキャンパスに入り込むことができると認識しております。

–学生にとっても、社会に出る前に大人と接する機会があるのは有益ですね。

学生が大人と接する機会は、親以外ではアルバイトの時など限られています。大人と議論を交わしたり、プレゼンテーションを行ったりする機会はあまりありません。しかし、本学の産学連携プログラムでは、学生と社員の方とがブレーンストーミングを行う機会も多くあります。学生は、プレゼンテーションなどの経験を積むうちに、相手に対してどのように説明すれば共感や同意を得られるのかを実践することができます。

多くの実践を通じて、学生たちは自身の特性に気づくことができるようになっています。ある学生は当初、メーカーの商品開発に興味を持っていましたが、産学連携に取り組む中で人と直接対話することが好きだと気づき、患者と直接コミュニケーションができる病院勤務の管理栄養士としての道を選びました。また、1〜2年生の段階から企業や業界について綿密な研究を重ねることで、自身に適した方向性を見つけやすくなり、就職活動の際にも大いに役立っていると、多くの学生が話してくださいます。

現在に息づく建学の精神

–お話を聞くと女子大ならではの活発な雰囲気を感じますが、そのような積極性のある女性が育つ風土を醸成するのは決して簡単ではないと思います。自分の幸せを自ら積極的につかみにいける女性を育てる梅花女子大学の風土は、どのように出来上がってきたのでしょうか?

梅花は、明治維新直後の1878年(明治11年)、大阪で初めての女学校として開校しました。創立者 澤山保羅は女子教育の必要性を説き、梅花女学校を創設するに至りました。キリスト教精神に基づく知育と徳育を基盤としており、全員が愛をもって教育を受けるべきという教えが根底にあります。

日本では昭和時代においても、女性の教育は良妻賢母を育てることが主流でした。しかし、本学は明治維新直後の開校当初から男子校と同様のカリキュラムを採用し、数学、物理、体育などの授業が行われていました。教員陣にアメリカ人宣教師がおられたこともあり、多くの授業は英語で行われていました。

明治維新直後の日本では、女性が教育を受ける機会は限られていました。しかしながら、そのような状況下であっても、本学は創設時より日本の将来を考え、性別に関係なく社会に貢献できるよう、女性の自立をサポートし続けてまいりました。この姿勢は、今考えてもすごいことだと感じます。

現在、本学は創設時の建学の精神を「チャレンジ&エレガンス」と称し、大学のスローガンとして掲げております。自ら問題を発見し解決するチャレンジ精神と、品性やキリスト教主義による愛と思いやりを兼ね備えた自立した女性の育成をめざしています。

これによって、社会に貢献できる豊かな魅力を備えた人材を育成してまいります。

「チャレンジ&エレガンス」な女性を育む仕掛け

学生たちが、自身にとって学生時代を過ごす特別な空間と感じられるキャンパスの構築にも注力しています。学生一人ひとりが、どのように理想とする女性となっていくかを自ら考えることのできるキャンパスです。

人生は必ずしも平坦なものではなく、社会に出れば、さまざまな困難が待ち受けているかもしれません。どんな瞬間にも、母校を思いだした時に心地よい温かさを感じることのできる”心のよりどころ”となるような場所であってほしいと願っています。

本学では、学生一人ひとりが理想とする女性になるための様々な取り組みを行っています。たとえば、毎月1日を「おしゃれの日」と定めています。ここでいう「おしゃれ」は、外見だけでなく、笑顔を意識する、おもてなしの心を持つ、感性を磨くなど、内面の美しさも含めた概念です。キャンパス内には至る所に鏡が設置されています。自分自身を常に見つめ、人から言われるのではなく、自ら考えた、真におしゃれな女性をめざすことができます。

また、学生食堂は2023年3月にリニューアルし、新たに「Boîte à Bijoux(ボワットビジュー)」という名前がついています。

この名前には、学生たちが身につけた知識や教養が大きな財産となり、生涯にわたって宝石のように輝きが内側からあふれ、一人ひとり、異なる色で個性を輝かせてほしいという願いが込められています。

生涯役立つ学びを後押し

本学では、4つの学部および9つの学科において、看護師や歯科衛生士など、女性が生涯にわたって働き続けるのに有利な資格や技能を身につけることができます。

女性は結婚、出産、また配偶者の転勤などによって、ライフステージが変化しやすいです。しかし、その時にどのような働き方を選択するかは、その時にならなければ分かりません。

その際に、自身の状況や考えに合致した働き方を選択できるよう、特にそのニーズに合わせた資格取得に焦点を当てています。

本学は2024年から主専攻×副専攻制度を取り入れています。学部学科にこだわらず、メディカルアロマインストラクターやメディカルヨガインストラクター、予防医学食養生士(薬膳)など、多岐にわたる分野の資格を在学中に取得することが可能です。

これらの資格を取得することで、育児の合間を活用して在宅で”プチ開業”をするなど、新たな可能性が広がります。一つの専門分野にとどまらず、複数の分野にわたる学びにより専門知識をさらに深め、多角的視点を持つことができます。分野の枠を超えて資格を取得できることは、将来のキャリア形成において、生涯役立つのではないかと思います。

自身が輝ける学びの場との出会いを

大学を選ぶ際、女子大学などは無意識に選択肢から外してしまう人も少なくないかもしれません。共学と女子大学のどちらが適しているかという問題ではなく、自身の個性や特性をもっとも伸ばすのにふさわしい環境で学ぶことが、その人の輝きを形作る土台であると思います。

高校生のような若い方たちは無限の可能性を秘めており、自身にふさわしい成長の場を見つけることができれば本当に幸せなことです。

本学を進学先として選ぶかどうかに関わらず、それぞれが自身の可能性を信じ、素敵な出会いを経験していただきたいと思います。そして、自然な形で多様性を認め合い、相手を尊重できるようになることを願っています。