社会貢献活動 × Fukuoka Jo Gakuin Nursing Univ.-Part 5-

福岡女学院看護大学の紹介

福岡女学院看護大学は、明治以来138年の女子教育の歴史のある福岡女学院の姉妹校として、2008年に福岡県古賀市に開校した看護大学です。

教育の特徴は、「あなた方がして欲しいように、他の人たちにもそのようにしなさい」というキリストの教えを基に、人間の尊厳、倫理観を備え、ヒューマンケアリングを実践できる人材の育成により社会貢献をすることを教育理念として掲げています。

ヒューマンケアリング教育とは、 「他の人の看護を通して、看護される側も看護する側も 共に人として成長する」という考えに基づいています。

また、大学は、その使命でもある「教育」、「研究」、「社会貢献」に取り組む際に、「社会の良き道具として成長しよう」をモットーにし、教職員・学生が一丸となって取り組んでいます。
本学の教育研究活動の特徴は、以下のとおりです。

  1. キリスト教の精神に基づき、博愛の心をもった看護職者を育成しています。
  2. 「ヒューマンケアリング」を実践し続ける看護職者として、組織的持続的に看護活動の発展普及に努めています。
  3. ICT教材(ミッションタウン)により、いつでも・どこでも・どのような場面を想定した最先端の看護学が学べるように仮装コミュニティ教材を開発し、あらゆる場面に対応できる看護大学を目指しています。
  4. 我が国最大規模のシミュレーション教育センターで、コンピューター制御したモデル人形を対象にして1年次から病院実習のような看護体験学習ができる、シミュレーション教育をリードする看護大学です。
  5. 様々な資格を取ることができます。一次救急救命の国際資格や、多言語コースではTOPEC看護英語試験等の受験等も可能で、グローバルな視野から看護探求を目指すことができます。
  6. 楽しい学生生活を送ることができます。200本のオリーブが育つオリーブの森の看護大学で、オリーブ祭、収穫祭、バーベキューパーティーといった本学独自の学内行事が楽しめます。
  7. 2023年、大学院がスタートしました。教員や病院の教育指導者となるための新たな扉が開きました。
  8. 開学以来就職率は100%です。

官学連携事業での母性・小児看護学領域の活動

福岡女学院看護大学は、社会連携を教育方針理念の1つに掲げ、社会連携活動に力を入れて取り組んでいることが特徴です。特に、母性小児看護学領域は、母子保健活動における古賀市との連携を行っており、官学連携事業としての主なる2つの事業に取り組んでおります。

その1つの事業が、母性・小児看護学領域6名の教員で担当している「妊娠後期すこやか教室(以下、すこやか教室とする)」、もう1つの事業は母性看護学教員で担当している「性教育」です。

以下、現在までの経緯を含めて、2つの取り組みについて紹介いたします。

すこやか教室のあゆみ

1.妊娠後期すこやか教室のはじまり

この事業は、2013年度に、古賀市の保健師との協議の機会に古賀市の母子保健活動の現状と課題について情報交換を行ったことが、取り組みのきっかけになりました。

具体的には、古賀市の妊婦に対する出産準備教育や相談事業が妊娠初期~中期の開催に留まり、分娩や沐浴に関する初産婦の相談が多い状況にあったとのことでした。この課題を少しでも解決する為に、保健師より大学で分娩や子育てを中心とした教室の開催の打診があり、本事業の開催に至りました。本事業は、開始以来10年が経過しますが、領域教員が代々、この事業を受け継いできました。

2.妊娠後期すこやか教室の実際(2019年度まで)

2014年度より、年6回(2か月に1回)のペースで開始しました。妊婦だけでなく、妊娠期の過ごし方や出産時の状況、子育て技術などは夫やパートナー、祖父母等家族にも学んでもらえる参加しやすい土曜日に開催することとなりました。教室の募集方法は、古賀市のホームページまたは、本学のホームページの専用申し込みフォームより申し込みをしていただき、古賀市と本学が参加者の情報共有を行いながら、継続的な支援につながるような工夫も行いました。

2014年度~2019年度までの参加者は、1回の開催につき、妊娠初期~中期までの妊婦とご家族3~16組でした。時には、初産婦だけでなく経産婦も参加するため、第1子も一緒に参加することもありました。毎回、教室の参加後に行うアンケート結果では、沐浴や育児技術の実技を行えることへの満足度が高く、講話・演習を通して自信と実感を得ているようなコメントが多く見られました。その反応に、親役割獲得の意識付けとなっていると教員一同感じていました。

また、このすこやか教室が本学学生に対しても学びの場となるようにとの思いから、2014年度にサークル「ルピナス」を立ち上げました。ルピナスのメンバーは、大学2年生を中心に活動を行い、すこやか教室の準備や教室の際の受け付け、妊婦や家族への実技の際のお手伝いなど、実際の妊婦や家族との関わりを体験し、看護につながる学びを得ることができています。

3.COVID-19感染拡大時の妊娠後期すこやか教室(2020年2月以降)

2019年度の2月より、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19 とする)の感染拡大により、対面で行っていたすこやか教室は中止となりました。ニュース等で妊婦への影響や妊婦が外出を控えているような報道があるたびに、何か代わりとなるものができないか思案していました。そこで、2020年7月頃より、講話と育児技術の沐浴とオムツ交換、抱っこなどの動画を作成し、申し込みいただいた方のみに視聴できるような取り組みを行いました。動画の内容は古賀市の保健師や助産師にも確認し、古賀市で行っている事業の内容と齟齬が起きないようにしました。

取り組みを開始後、2020年度と2021年度まで約15組の方に動画の配信を行いました。しかし、配信だけでは直接妊婦や家族の状況が分からないので、2022年度(2022年4月~2023年3月まで)はLIVEのすこやか教室を5回行いました。画面越しでも妊婦や家族の表情などがわかること、質問等やり取りができることもあり、妊婦やご家族がその場で疑問等も解決できることから、LIVEで行ってよかったと感じていました。参加者は妊婦17名、夫9名でした。教室終了後のアンケートからも「遠方から参加できてよかった」「専門の方が説明してくれると説得力があり参考にできると思った」などの感想を頂きました。

このように、COVID-19感染拡大時においても、教室の運営方法を考え継続することが妊婦・家族にとって大切なのだと私達も改めて感じた3年でした。

4.2023年度からのすこやか教室

今年度からは、対面開催可能になり大学で行うすこやか教室に戻りました。年4回の開催としています。ようやく対面での実施になり、直接妊婦と家族に会うことができ、私達教員もとても嬉しく思っています。現在の運営状況について説明します。毎回、母性看護学と小児看護学の教員3名が講話担当・実技担当(沐浴・抱っこ・オムツ交換)・メール等の連絡担当として運営しています。また、ルピナスサークルの学生達10名程が参加しています。

今年度は、教室開始10年の年になります。ここまで継続してできていることは、古賀市との連携事業としての本学の役割の確立もありますが、沐浴・抱っこなどの育児体験ができることなど妊婦と家族が一緒に参加したいと思っていただいていることが大きいのではないかと思います。現在、核家族化や多様なライフスタイルに対応した子育ての支援が必要とされています。子育ての情報はインターネット上に多様にありますが、対面で行うことによって、個別の状況に合わせたアドバイスや関わりができると感じています。

私達、母性看護学と小児看護学の教員は、現在の出産や子育て情報をバージョンアップし、専門的知識を用いて支援を行っています。今後は、少しでも妊婦や家族の妊娠後期から育児期までの疑問や不安が解消し、出産や子育て期を乗り越える支援を古賀市と一緒に続けていくことができたらと思っています。

性教育の取り組み

1.古賀市立中学校での性教育事業のはじまり

長い間、福岡県の10代の人工妊娠中絶率は連続して全国ワースト1位の状況でした。そのような背景から性教育の重要性を痛感し、古賀市の保健師と古賀市立中学校の養護教諭、福岡女学院看護大学母性看護学の教員(助産師)が連携し、協議を重ね、2014年度から性教育事業が開始しました。

その対象は、市内の3つの公立中学校の生徒で、約1700名(2023年5月現在)です。

2.官学連携事業としての性教育 ~それぞれの役割~

性教育の内容は、学習指導要領や思春期の子ども達を取り巻く課題をもとに毎年三者(保健師・養護教諭・助産師)が一堂に会し、検討しています。

保健師からは古賀市の母子保健の現状、養護教諭からは学習指導要領や性にかかわる生徒の悩み、助産師からは動向を踏まえた性教育内容の提案など、それぞれの立場から性教育に係わる情報を提示し、議論を重ねます。三者の立場からの情報提供や意見交換は、双方が最新の情報を得ることができ、性教育内容をより充実したものに導いており、また毎年協議することで、性教育の対象である‟その時々の生徒“に沿った内容を構成することができています。

古賀市立中学校での性教育は、講演という形で助産師と保健師が各々の専門分野を活かしながら担当しています。

3.性教育講演の内容

性教育講演のテーマ

  • 1年生「思春期のこころとからだの変化」
  • 2年生「いのちの誕生と思春期の今を生きる」
  • 3年生「-お互いを大切にする関係とは- ~デートDV,性感染症~ 」
    (1年生は内容が異なるため男女別、2・3年生は男女合同での実施)

講演の始まりは少し照れた表情や冗談を言っている生徒の皆さんも講演半ばになると真剣な眼差しで話を聴いてくれています。ここで、生徒の皆さんの感想を少し紹介します。

‟思春期に入ると色々な変化があるということが分かり、これからはお互いを理解して助け合いたい“
‟今、自分がここにいることを両親に感謝したい”
‟いのちというものは世界に一つだけのもので、みんな違ってみんないい“
‟いのちを授かる時はそれと同等の責任と覚悟が必要だと分かった”
‟相手を尊重する関係が大切であることを学んだ“
‟お互いを思いやった行動や言動を心がけていきたい”
性に関する話を自分ごととして受けとめ、自己の性を見つめ直していることが良く伝わってきます。  

文部科学省から提示されている学習指導要領(学校における性に関する指導について)には、実施にあたり「発達段階を踏まえること」「学校全体で共通理解を図ること」「保護者の理解を得ること」等を配慮することの重要性が述べられています。

本性教育事業においても実施前に講演担当者は生徒の状況を把握し、講演内容を学校側に提示するとともに講演を聴講した先生方からフィードバックをもらい、内容の振り返りを行っています。また、学校側は視聴可能な保護者が講演を視聴できるようにLive配信システムを整えたり、「ほけんだより」等を通じて講演内容や生徒の感想を保護者へ配信したりしています。

このようなスムーズな開催ができているのも、この10年間担当者が代わっても三者の連携が継続され、実施してきたからこそだと思っています。特にコロナ禍は、対面の講演を実施できないこともありましたが、コロナ禍が中学生へ与える不安やストレス、SNSの浸透による性に関する情報氾濫や性被害の増大を懸念し、学校の事情に合わせLive配信等を用いてオンラインで性教育講演を継続しました。SNSだけの人間関係では性に関する深刻な悩みの相談はできないのです。

4.今後の性教育事業について

思春期の子どもたちを取り巻く性に関する事情は、日々目まぐるしく変化しており、本性教育事業も10年を迎え、多角的評価を実施する必要性を感じています。

性教育は、『自分の性や身体を肯定的に捉えられるようになり、自分らしく生きていくため欠かせない教育』です。中学生の皆さんが自分の性と向き合い、自分らしく歩んでいけるように三者の連携をさらに強化し、性教育内容をアップデートしながら‟その時々の生徒“に沿った事業をこれからも継続していきたいと考えます。