SDGs 大学プロジェクト × Himeji Univ. -Part 3-

姫路大学の紹介

姫路大学は、世界文化遺産でもある雄大な「白鷺城」こと姫路城が立地する歴史的なエリアに学び舎を構え、キャンパス周辺は歴史と自然が調和した魅力的な街並みが広がり、瀬戸内海を一望できる緑豊かなキャンパスです。

四季が織りなす景観をキャンパスで感じながら、高度な看護実践力をはじめ、4年制ならではのアカデミックな学びで保育士、幼稚園、小学校、養護教諭を目指します。少子高齢社会の現代に不可欠な、看護と教育のプロを育てる本学では、めざす将来に直結した2つの学科を設けています。

「看護学科」では、看護の基本的な知識・スキルはもちろん、グローバルヘルス看護や災害看護など、より高度な専門知識を身につけます。

「こども未来学科」では、教育に看護や養護まで取り入れた幅広い学びが特徴です。また、ボランティアやフィールドワークなど充実した体験型授業を通じて、幅広く対応できる教育者のスキルを磨きます。

サッカーを通じて多様な人々との交流を生み出す

ー姫路大学サッカー部の概要について教えてください。

姫路大学のサッカー部は、インクルーシブな取り組みに重点を置いており、学業を優先しつつ、好きなサッカーを楽しみたい学生に対して適した環境を提供しています。 このチームは、単に楽しむことだけでなく、障がいのある学生や他大学の学生、さらには社会人とも共に活動することで、障がいの有無や世代に関わらず世代を超えた人との繋がりを大切にしています。

現在、チームメンバーは37名でトップチームは姫路大学の学生7名、他大学の学生1名、そして社会人11名で、サテライトチームは18名で姫路大学職員2名、社会人16名で構成されており、監督はデフサッカーの元日本代表監督である中山剛氏が務めています(2024年5月1日現在)。

学業に励み、無理なく参加できるように、練習は日中以外の朝とナイターの時間に週に1、2回活動しています。また、このチームは学生リーグではなく姫路市の社会人リーグに学生以外も登録しています。このような活動形態は、他の大学のサッカー部と比較しても珍しく、多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まることで、独自の魅力を持つチームになっていると思います。

インクルーシブな取り組みとは:障害の有無、性別、性的指向、人種など、一人一人が持つ多様な特性を認め、受け入れ、活かす取り組みのこと。

デフサッカーとは:「デフ」とは英語で「deaf(聞こえない人、聞こえにくい人)」という意味で、ろう者(デフ)サッカーとは、聴覚障がい者のサッカーであり、競技中は補聴器を外すことが義務付けられていることから「音のないサッカー」の愛称で呼ばれています。 参考資料:JFA(公益財団法人 日本サッカー協会)2024年6月22日

ーなぜ、インクルーシブなサッカー部を設立したのでしょうか?

サッカーを通じて、多様な人々が楽しみ、受け入れられる場を提供することを目的としております。私たちは、単に競技としてのサッカーだけでなく、人間形成や地域社会との関わりを重視し、地域の方々から愛されるチームを目指しております。

学生たちは、地域貢献活動に積極的に参加することで、他者の立場や気持ちを理解し、より考える力を身につけることが期待されます。サッカー部は、このような人材を育成する場としての役割を果たしていくことが重要です。

また、姫路大学は看護学部と教育学部を設置しており、どちらの学部も卒業までに実習があります。通常の授業以外の学業があるため、4年生まで課外活動を続けるのが難しい現状があります。運動部だと入学後の早い段階で部員を獲得して、試合に出られるのが1〜2年くらいという短いサイクルで運営していかなければなりません。ましてや、サッカーの試合は11人で試合を行うため、部員の確保は極めて重要です。そのため、監督の意向を受けて、他大学や社会人との合同チームを結成することを大学側に承認していただきました。

将来的には、社会人や他大学のメンバーが、本学の学生のサポートメンバーとして参加します。もちろん、チームメイトとして練習やリーグ戦に参加することに変わりはありません。

練習ではとにかく周りを見ることが重要

ー聴覚障がいのあるメンバーはどのような経緯で入部したのでしょうか。

サッカー部創設に際し、徳島商業高校の3年生であった青木和樹さんに中山監督が声を掛けました。

青木さんはその時の心境を「声を掛けられた際には驚きましたが、大学で障がいのある人を受け入れるプロジェクトの最初の対象者として選んでいただいたことは非常に嬉しく思いました」と語っていました。青木さんは当時から中山監督を知っており、礼儀に厳しい人物だと感じていたそうですが、そのもとでの成長が期待できると考え、姫路大学への進学を決意しました。

中山監督は以前から、障がいのある人が大学を卒業する例が少ないという問題に取り組んでおり、青木さんが学士の学位を取得することで、今後のデフサッカー選手にとっての良い先例になると考えています。

現在、姫路大学の教育学部4年生である青木さんは、教育実習を控えています。また、彼はデフサッカー日本代表を目標にサッカー部の活動を続けながら卒業に向けて努力を重ねています。

ーこれまでどのような練習に取り組んできましたか?

まず、周りを見ることを意識させました。通常、健聴者は聞こえることを前提にプレーしますが、青木さんの場合は視覚に頼って相手の動きを捉える必要があります。
ゴールキーパーやその前に位置するディフェンダーたちは、前方を見渡し、ボールや味方の位置を把握しやすい状況にあります。そのため、後方の選手ほど、頻繁に位置の指示やマークの指示を出すことができます。

一方で、青木さんは後ろからの声が聞こえないため、口頭での指示に気付くことができません。「前に出て!」といった声掛けにも反応することが困難です。したがって、初めから健聴者と同様にプレーをさせるのは難しい状況でした。さらに、他のメンバーも高校生のように毎日のように練習するわけではなく、スペースの確保やチームメイトとの連携も希薄になりがちです。

このような状況を踏まえて、中山監督は練習前のフォーミングアップで、チーム全体の視野を広げる目的に、周りを見る基本的な練習を行います。例として、コートの狭いスペースに約20人が参加し、5人がボールを手で持ちます。そして、相手の名前を呼んでからボールを投げ、受け取った人は直ちにボールを持っていない人を探し、相手の名前を呼びながらボールを投げます。参加者は常に周囲を意識し続ける必要があります。

聴覚に依存できない青木さんや健聴者の部員も、こういった練習をすることで、自然と目で周囲の状況を把握する習慣を身につけることに役立ちました。健聴者の選手にとっても、青木さんとの連携を深める練習となりました。

ー姫路大学の学生たちは、サッカー部に入部してどのようなことを学んだり感じたりしているのでしょうか?

学生たちからは、「サッカーを通じて、社会人や障がいのある方々との交流が増え、人との繋がりが広がりました。さまざまな世代の人々と接することで、多様な視点や思考を学ぶことができました」との声を聞きました。自分が好きでやっているサッカーを通して感じたことは、腑に落ちやすいのでしょう。

障がいのある人々との関わりについても、直接接することで得られる学びがあります。ただ話を聞いているだけでは想像しづらいかもしれませんが、実際に接することで障害に対する理解が進み、適切な接し方を学ぶことができます。

社会人との交流も、学生たちにとっては貴重な機会になります。アルバイト先で関わることもあるかもしれませんが、コミュニティとしての広がりや多くの大人との人間関係を築く場面はあまり多くないように思います。卒業までに看護実習や教育実習に行く学生が多いですから、サッカー部で社会人の雰囲気を感じたり、仕事でのマナーを学んだりできることは彼らにとっても良いことだと思います。

障がいのある人からすれば、自分たちの状況もわかってもらいながら一緒にサッカーを楽しむことができる。年配の人たちは若い人と接することで、元気をもらいながらサッカーを楽しめる。参加者みんなに良い影響を与え合っていると思います。

コミュニティとしてのインクルーシブサッカーを目指して

ーこれからのサッカー部の展望について教えてください。

サッカーが好きな聴覚障がいを持つ高校生については、引き続き募集活動に力を入れていきたいと考えています。

聴覚障がいを持ちながら大学へ進学し、卒業する人はかなり少ないと聞きます。大学へ進学し、教員免許を取り、サッカーも続けていたという学生を1人送り出せれば、聴覚障がいを持ちながらサッカーをしている子ども達にきっかけを与えてあげることが出来ると考えていますので、青木さんの卒業は私たちにとっても重要な意味を持ちます。

姫路大学のサッカー部は強さ至上主義ではありません。学生が、多様な人の気持ちを考えられるように成長し、人間力を高めることをねらいとしていますので、健聴者でも、看護師や教育者を目指しながらサッカーを続けたいという高校生も同時に募集していきます。同時に姫路大学サッカー部を盛り立ててくれる地域の社会人の方も引き続き募集していきます。

ーリーグ戦での目標や大事にしたいことはありますか?

現在、姫路市の社会人リーグで、1部と3部にそれぞれチームを登録していますが、さらにもう1チームを立ち上げることを目指しています。上位を目指すチーム、2部リーグで活躍するチーム、そして3部リーグで初心者も含めてサッカーを楽しむチームのように、どんな選手でもサッカーに関われるできる場を提供したいと考えています。

姫路大学のサッカー部は、3部リーグからスタートしました。初戦で得点を決めたのは、なんとチーム最年長の松井隆典さん(当時56歳)でした。その初得点がきっかけとなって、チームに勢いが付き、リーグ戦初参加で初勝利を飾りました。

「大学」という名を冠している社会人サッカーチームでありながら、公式戦で初得点を挙げたのが50代の選手というのは本当に印象的で、いまでも私の心に残っています。得点後に松井さんに笑顔で集まってくる部員達をみて姫路大学サッカー部の目指す形はこれだなと感じた瞬間でした。

その後、1部に昇格しより多くの方々に携わって頂ける場を作るため2024年度は2チーム目を立ち上げることになりました。将来的にはもっとチーム数を増やしていき、年齢や障がいの有無に関係なく、多様な背景を持つ選手たちが、それぞれのレベルでサッカーを楽しめる環境を提供したいと考えています。

現在のメンバーが20代で結婚し、子どもを授かったとしても、40代になったときには、自分の子どももサッカーができる年齢になっているでしょう。その子どもたちと一緒に公式戦に出場の機会を提供できれば、素晴らしい思い出になると思います。ゆくゆくは親子で同じピッチに立てるようなチーム、組織作りを実現するのが私たちの夢です。

デフサッカーや障害者支援も行う大学のサッカー部から、1つのコミュニティに発展させて、健常者から障がい者、様々な人が係り合い、全員でサッカーを楽しめるというインクルーシブの活動を続けていきたいですね。