
SDGs 大学プロジェクト × Nagahama Institute of Bio-Science and Technology. -Part 2-
目次
長浜バイオ大学の紹介


長浜バイオ大学は、滋賀県長浜市に位置する私立大学です。豊かな自然に囲まれた静寂な環境で、学びに集中できる理想的なキャンパスはJRの駅からも近く、通学に便利な立地です。
バイオサイエンス学部のみ設置の単科大学で、フロンティアバイオサイエンス学科、アニマルバイオサイエンス学科、そして2024年4月に新設されたバイオデータサイエンス学科の3学科で構成されています。
実践的な教育を重視し、学生たちは3年次までの3年間で865~900時間に及ぶ実験・実習を経験します。また、最先端の機器や設備など、充実した学習環境が整備され、学生が主体的に研究を進めることが可能です。
「犬と食べられるおやつ」を食パン専門店「さすがにオテアゲ」と共同開発
-食パン専門店「さすがにオテアゲ」(以下、オテアゲ)と共同で「犬と一緒に食べられるおやつ」を開発したきっかけについて教えてください。
河内教授:オテアゲさんからオファーをいただいたのがきっかけです。オテアゲさんの店舗はJR守山駅にほど近い場所にあり、全国から多くの観光客が訪れるそうです。こちらのお店は食パンをおもに販売しているのですが、看板に両手を挙げた犬のモチーフが使用されているため、犬用のペットフード屋さんと勘違いする方が多いとのお話でした。
そこで、オテアゲさんでは「犬と一緒に食べられるおやつ」も開発することを思いつき、共同開発してくれる相手をネットで探していたようです。「ペット栄養管理士」というキーワードを元にネット検索している中で、偶然にもその資格に関わる専門家が滋賀県にいることを知り、ご連絡をいただきました。私は以前、日本ペット栄養学会の理事をしていたことがあり、ペット栄養管理士養成講習会のビタミンに関する部門の講義を行っています。
アニマルバイオサイエンス学科には、犬や猫が好きな学生だけでなく、爬虫類やその他の動物が好きな学生が多く在籍しています。特に犬や猫が好きな学生は、毎年60人中10人ほどいますので、このオファーを伝えると非常に喜ぶと思い、引き受けることにしました。滋賀県内には他にも理系大学があるのですが、オテアゲさんが犬や猫が好きな学生が多い本学を選んでくれたことに感謝しています。
もちろん、学生たちもとても喜んでくれました。
-どのようなスケジュールで開発を進められたのですか?
河内教授:2024年3月頃にオファーをいただきましたが、オテアゲさんからは7月の販売を目指したいとのご要望がありました。このプロジェクトに賛同してくれたのは、2年次生と3年次生の計24名。約5名ずつの5チームによるプレゼン形式で競い合いながら、5月15日に販売商品を決定する段取りを組みました。
当時、学生たちは実習やレポート作成に追われており、7月までに商品を決定し、開発することが可能かどうか不安を感じている者もいました。しかし、アニマルバイオサイエンス学科の学生たちはとても動物愛に溢れているので、「犬のためなら」という想いを胸に、忙しい合間を縫ってプロジェクトを進めてくれました。
5つのチームが提案したおやつの候補は、パンが3つ、ドーナツとマフィンが1つずつでした。栄養面にも配慮し、使用する素材は学生たちが主体となって選定しました。学生たちは普段から実習レポートの作成や考察に慣れているため、限られた時間でのプレゼン資料の作成には秀でています。資料の作成のみならず、レシピの作成や成分分析など多くのタスクがありましたが、短期間でしっかりと対応し、遅れることなく対応してくれました。
犬も一緒に食べられるパン2種類「いぬぱん」と「ワンだふるぱん」を商品化


-どのようなパンを商品化することになったのでしょうか?
河内教授:プレゼンの結果、3年次生がプレゼンした「いぬぱん」と「ワンだふるぱん」に決定しました。「いぬぱん」は食パンの断面がオテアゲさんの看板犬である柴犬の「オアゲ」の顔になっているパンです。「ワンだふるぱん」は、トマト・かぼちゃ・ほうれん草・あずきをそれぞれ練り込んだパンで、使用する野菜や食材は、与えて良い素材の中から栄養素を考慮して選定しました。
どちらの食パンも1個200円(税込)で、厚さ4センチくらいの人の手に収まるサイズ感です。素材にこだわっているので、賞味期限は5日間となっています。通常、食パン作りに欠かせない塩の代わりに塩麹(しおこうじ)を使用し、バターをオリーブオイルに変更することで、犬も安心して食べられるよう工夫しています。
商品化に至らなかったチームもありますが、本当にどのチームも良く考えてアイデアを出してくれたと思い、感心しました。そもそも、2年次生は私の動物栄養学の授業をまだ受けておらず、成分分析の実習も経験していないため、難しい部分もあったかもしれませんが、皆で協力しあい、学びながらプロジェクトを進めていった印象です。
今回採用された「いぬぱん」と「ワンだふるぱん」を開発した3年次生の2チームは、進め方やプレゼン能力など、すべてにおいてとても上手でした。学びをきちんと体現していたのも教育者としても非常に嬉しく、さすがの一言に尽きました。
栄養があって、安心・安心なものを作りたい

-犬と一緒に食べられるおやつの開発にあたり、外せない点や苦労した点はどの部分でしたか?
河内教授:外せない点は「犬が食べても安心なもの」を提供することです。
人間が当たり前に食べているものでも、犬には与えてはいけないものがあります。例えば、玉ねぎやチョコレート、塩などのミネラルがそれに該当します。特にミネラルが多いものを与えると、尿管が詰まってしまうリスクが高まるのです。
そのため、レシピの開発にあたって、学生たちは私の動物栄養学の講義を参考にするほか、獣医師で元滋賀県獣医師会長でもある柴山隆史先生に講義をしていただき、与えてはいけない食材や、与えてよいものについては犬にとってどれくらいが適量なのかを学びました。
例えば、塩分は塩ではなく、ミネラルが低めの塩麹で代用することや、栄養の観点から、乳製品としてヤギ乳を使用してはどうかというアイデアもありました。結局、ヤギ乳は手に入りにくいため実現には至りませんでしたが、私たちの講義を参考にし、学生たちが直接柴山先生に確認するなどして、使う食材や栄養素を考えていました。
また、オテアゲさんの看板犬である柴犬の「オアゲ」の顔を模した「いぬぱん」の目は、炭を使用して黒く表現することに決めました。しかし、焼き上げた際に炭が膨張して目が大きくなってしまい、目のサイズ調整に苦労しました。


成分分析も学生たちが主体となって行いました。成分分析の実習は3年次生の実習として私が授業を受け持っています。実習では、マウスの餌に含まれるタンパクや炭水化物(=糖質)、脂質、ミネラル、水分を分析しています。この分析を一般分析というのですが、パンに対しても一般分析を行い、栄養素の含有量を確認しました。
試作品作りはオテアゲさんで行われたのですが、試作品を食べてみたところ、人間にとってはとても物足りない味わいでした。このプロジェクトを通じて、人間はいかに多くの原材料を使ってカロリーを摂っているのかも認識しました。


とはいえ、今回のプロジェクトの目的は犬にも食べてもらうことですので、無味に近いパンを犬が食べてくれるかが不安でした。しかし、犬を飼っている学生に試作のパンを配り、犬が食べる様子を動画に撮ってもらったところ、すべての犬が食いつくように食べてくれました。
使う野菜や食材は栄養素を重視した天然素材にこだわり「免疫力アップや疲労回復効果のあるパンを、より多くの犬に届けたい」という一心で作ったので、この結果に喜びもひとしおでした。
動物愛の強い学生たちの想いや熱意が、商品作りに繋がったと思います。
オープンキャンパスでの販売でも手応え

-8月4日に開催されたオープンキャンパスで、「いぬぱん」と「ワンだふるぱん」を販売したとのことですが、手応えはいかがでしたか?
河内教授:オープンキャンパスでは、開発に携わった学生たちが翌日に定期試験を控えていたため、オテアゲさんが代わりに販売を担当してくださいました。販売用のパンは準備が少なめでしたが、すぐに完売しました。
ブースでは、犬たちが「いぬぱん」や「ワンだふるぱん」を食べている動画を流し、犬たちの様子がわかるように工夫したのが大きかったと思います。動画は動画編集ができる大学職員に手伝ってもらい制作しました。


次回以降のオープンキャンパスでは、開発に携わった学生たちにもブースに立って販売してもらい、その手応えを実感してほしいと考えています。
学生たちの「動物愛」が込められた商品を、より多くの方に購入して欲しいと思います。
より産学連携への関わりを強めたい


-今回の「さすがにオテアゲ」とのコラボレーションを期に、何か新しいものを作って行きたいなどアイデアがありますか?
河内教授:今回は、入学したばかりの1年次生に声を掛けることができませんでしたが、1年次生にも犬や猫が好きな学生がいるので、次にまた機会があれば、このような企画にぜひ参加させたいと思っています。オテアゲさんとのコラボレーションに加えて、産学連携をさらに強化し、学生たちを積極的に巻き込んでいきたいと考えています。
私は2010年より、琵琶湖の固有種であるビワマスの養殖に関する研究をしているのですが、例えば長浜市の小料理屋さんやホテルと組んで、ビワマス料理を広める活動をするのも面白いのではと思います。
アニマルバイオサイエンス学科には他にも、メダカの研究をしている先生や胚培養士(はいばいようし)*を養成している研究室などさまざまです。私自身は食品について研究しているので、ビワマスを広める活動やペットフードを開発する事業を学生と一緒に取り組んでいきたいですね。
学生がやっていることや考えたことが何かしらの形で世に出て広まって、産業に貢献できる活動ができればと思っています。
胚培養士(はいばいようし):胚(受精卵)を扱う専門職
アニマルバイオサイエンス学科に関心がある学生たちにメッセージ

-最後に、アニマルバイオサイエンス学科に関心がある学生たちにメッセージをお聞かせください。
河内教授:アニマルバイオサイエンス学科では、「絶対に面白いことをやっている」と自負しています。「生き物好き」や「昔、夢中になっていた昆虫や魚などの採集」が仕事につながる学びを行っているからです。
当学科の入学者の中には、小さい頃から昆虫や魚を捕まえることに熱中していた学生が多くいます。他にも、今回の「犬と食べられるおやつ」の開発に携わったような、犬や猫が好きな学生ももちろんいます。

また、ビワマスのような「魚が好き」という理由で入学した学生も多く、「魚が大好きだから、給料が安くても魚に関わる仕事に就きたい」という魚愛に溢れる学生も多数います。その中には、河川に生息する淡水魚の数を調査する環境調査の仕事に就いた卒業生もいます。
最近では、京都水族館に自分の研究成果をアピールし、その熱意で就職が決まったという、幼少期からの「動物好き」を仕事にした学生もいます。このように「動物愛」が強ければ、熱意で扉が開くこともあることを実感しました。
「学生たちを生き物のプロフェッショナルにしたい」というのがアニマルバイオサイエンス学科のコンセプトです。生き物に興味がある学生がいたら、一緒に学びを深めたり研究したりして、「生き物好きを活かし将来の仕事にしてほしい」と思っています。