社会貢献活動 × National Institute of Fitness and Sports in Kanoya. -Part 3-

鹿屋体育大学の紹介

鹿屋体育大学は、鹿児島県大隅半島の鹿屋市にある、全国で唯一の国立の体育系大学として、1981年(昭和56年)に設置されました。

学部は体育学部のみで、スポーツ総合課程と武道課程の2つの課程があり、それぞれの専門に向けた学びが可能です。学生数は大学院生を入れて約800人の小さな大学ですが、全国各地から学生が集まり、豊かな自然に囲まれた広いキャンパスで、学びに集中できる環境が整っています。

国内初の最先端スポーツ科学研究設備を備えた「SPORTECスポーツパフォーマンス研究センター」のほか、「スポーツトレーニング教育研究センター」「屋内実験プール」「国際交流センター」「海洋スポーツセンター」など、国立の体育大学ならではの教育・研究設備が充実しています。2023年(令和5年)からは、「スポーツイノベーション推進機構」を設置し、本学の研究資源を統合し、先端的な研究の推進を図っています。

23団体ある課外活動には、ほとんどの学生が加入しており、全国規模の大会で優秀な成績を収めています。加えて、地域の方々を対象とした競技会やスポーツ教室の開催、自治体などが主催する競技大会での審判や運営・指導補助など、積極的に社会・地域貢献活動に取り組んでいます。

スポーツのまちかのやから女性活躍促進を考える

健康と活力に満ちた地域社会の実現には、スポーツの普及と発展が不可欠です。
特に、「未来につながる健康都市 かのや」というビジョンを掲げる鹿屋市では、『ひと』と『まち』が『元気』であることを基本とし、鹿屋市の明るい未来づくりのため、市民一人ひとりが、ぬくもりと豊かさを実感できるまちづくりに力を入れています。

この取り組みの中で、女性の活躍促進は、重要なテーマの一つとして位置づけられており、本学でも、この分野への取り組みを強化していきたいと考えています。

スポーツ分野における女性の活躍は、多くの場面で目覚ましい成果を挙げています。しかしながら、女性がリーダーシップを発揮し、活躍する場はまだまだ限られているのが現状です。

アンコンシャス・バイアス、すなわち無意識の偏見や思い込みがこの背景にはあると考えられます。この無意識の壁を乗り越え、女性がさらに活躍できる社会を実現するためには、まずはその存在を認識し、それに向き合うことから始めなければなりません。

シンポジウム「スポーツで考える女性活躍促進」は、この問題に対して重要な一歩を踏み出す機会を提供するため、開催いたしました。

シンポジウム「スポーツで考える女性活躍促進」

山田理恵教授(以下、山田教授):2024年3月20日に増田明美氏と宮嶋泰子氏をお迎えして、シンポジウム「スポーツで考える女性活躍促進」を開催しました。

第1部は「スポーツの力、女性の力」と題した増田氏のご講演。第2部は本学経営協議会学外委員でもある宮嶋氏と進行役の山田が加わり、3人で「スポーツのまち かのや から女性活躍促進を考える」をテーマにディスカッションを繰り広げました。

【講師紹介】
増田明美氏(写真:中央)
スポーツジャーナリスト、大阪芸術大学教授。
1984年のロサンゼルスオリンピック女子マラソン日本代表。1992年に引退するまでに日本最高記録12回、世界最高記録2回更新の記録を残した。
現在はスポーツジャーナリストとして、執筆活動や駅伝・マラソン中継の解説に携わるほか、講演、イベント、テレビ出演など多方面で活躍。日本パラ陸上競技連盟会長など公職も多数。

宮嶋泰子氏(写真:右)
スポーツ文化ジャーナリスト、(一社)カルティベータ代表理事。
アナウンサー、ディレクター、プロデューサーとして、長年スポーツ番組制作を手掛けた。五輪やパラリンピックの現地取材経験も豊富。
大学の客員教授や非常勤講師も多数務め、鹿屋体育大学の経営協議会学外委員でもある。

山田理恵教授(写真:左)
鹿屋体育大学スポーツ人文・応用社会科学系教授、男女共同参画推進室長。

山田教授:元トップアスリートである増田氏のご講演と、オリンピック実況中継を務めた元アナウンサーの宮嶋氏、増田氏によるディスカッションを楽しみにして、シンポジウムには、一般市民や学生、教職員110名の参加がありました。

参加者のうち8割以上が女性であったことは、このテーマが女性にとって特に関心が高いことを示しています。参加者からは、「講演はとても楽しかった」「ぜひまたこのような企画を実施してほしい」といった感想が寄せられました。

仮屋薗(かりやぞの)副課長:第1部では、増田氏がトップアスリート時代に経験したことや、途上国への支援のお話などがありましたね。

山田教授:増田氏は話題がとても豊富で、私たちの想像をはるかに超えるお話をうかがうことができました。
女性スポーツの道を切り拓いてきた、二階堂トクヨさん(日本女子体育大学創設者)や、アリス・ミリアさん(国際女子スポーツ連盟を組織)、人見絹枝さん(日本女性初のオリンピックメダリスト)たちのこと、過酷な食事制限やトレーニングの影響で、28歳で引退した時には60代のような骨密度だったという増田氏ご自身のことなど、大変興味深かったですね。

ラオスやトーゴでのお話には、スポーツの価値をあらためて考えさせられました。開発途上国の少女たちの中には家事労働の担い手として扱われ、自分の夢を持てずにいる人もいます。

国際NGOプラン・インターナショナルジャパンのボランティア活動で増田氏は、そのような子どもたちに「外に出て一緒に走ろう」と声をかけたのだそうです。走り始めたら、子どもたちの表情が変わってくる。そして、自分自身の夢を持ち、未来を考え始める。子どもたちにとってスポーツは、食料支援や教育支援とは全く違う形の大きな支援となりうるのです。

また、女子マラソンでパリ五輪への出場を決めた鈴木優花選手を育て上げた、元バルセロナ五輪代表の山下佐知子監督の活躍にも触れられました。女性の指導者はまだ少なく、コーチや監督の多くは男性です。しかし、女性特有の身体のことや心のことをきめ細やかにサポートできるのは、女性指導者です。

今後、女性指導者が増えてくれば、今まで以上に女性アスリートが活躍できるようになるでしょう。教育機関としての本学のあり方について考えさせられました。

仮屋薗副課長:第2部のディスカッションでは、現代の社会における男女共同参画の現状や課題についてさまざまなお話がありましたね。

山田教授:参加者から「性差による不利益を生まないために、大人が子どもたちにできることは何か」といった質問がありましたが、男性も女性もお互いを大切にして協力していくことが重要だと感じるディスカッションでした。

身近な例として、お宅での家事の様子を紹介いただいたのですが、宮嶋家では家事を「分担」ではなく「一緒」にされるそうです。1人が食洗機の食器を取って1人が食器棚にしまうとか、洗濯物を一緒にたたむとか。その光景を当たり前のものとして育つ子どもたちは、性差を考えなくなるのではないかと話されました。

増田氏のご実家は農業をなさっていて、ご両親は協力して仕事をされていて喧嘩もなかったそうです。ご自身もパートナーと家事を協力して行っているおかげで仕事ができています、と仰っていました。

仮屋薗副課長:「男女共同参画」はなかなか難しいテーマではありますが、スポーツや身近な話題と絡めたお話でしたので、市民の方にも楽しく考えていただけたと思っています。日本で唯一の国立の体育大学である本学が鹿屋市にある意味を、市民の方に提供できるよい機会になったのではないでしょうか。

スポーツにおける女性の活躍促進の課題

仮屋薗副課長:今回のシンポジウムは、スポーツにおける女性の活躍促進に本学が果たすべき役割を考える上でも、大きな意義があったと思います。

山田教授:スポーツにおける女性の活躍促進というと、女性のスポーツ参加の機会を増やすとか、施設を増やすことなどが一般的によくいわれています。しかし、教育研究機関としての本学の役割はまた別のものだと感じています。

本学にできる社会貢献の1つは、情報発信です。2021年度には、女性の元トップアスリートの方々をお招きしてお話しいただきました。これらの方々が、これからトップアスリートを目指す中学生や高校生、大学生たちの目標、ロールモデルとなることでしょう。

競技を引退した後にもそのような生き方、働き方があるのだと知っていることが、未来のアスリートを支えるのです。本学の役割は、ロールモデルをどんどん提供し情報発信することにあると考えています。

もう1つは、女性指導者の育成です。もちろんそれは、各競技団体の課題でもありますので、共に考えていけるといいですね。本学は、日本で唯一の国立の体育大学であり、学部から博士後期課程まで設置されています。スポーツ分野の女性研究者を増やしたり、大学院に進学する人を応援したりすることも、本学の重要な役割だと思います。

仮屋薗副課長:現在本学を卒業した女性たちは、一般企業やスポーツ健康関連企業のほか、警察官などの公務員、教員などを主な進路にしています。今後はぜひ、女性の指導者を増やしていきたいですね。

山田教授:スポーツを「する・みる・ささえる」のすべての分野において、本学の卒業生が活躍してくれたらいいなと思います。

鹿屋体育大学の男女共同参画推進

仮屋薗副課長:本学の男女共同参画推進室では、今回のようなシンポジウムを企画・実施したり男女共同参画の推進について調査したりして、男女共同参画についての啓発活動を進めてきました。

たとえば、学生の男女比率、教員や職員の男女比率などを数字で出すことによって、女性の活躍を意識するようになってきたと思っています。まず知ること、そして意識することが重要です。国としてもさまざまな数値目標を基本計画の中で出していて、それが社会の意識の変化につながっていると思います。

山田教授:近年はスポーツ種目の中でも、水泳やバレーボールなど男女が一緒になって競技する男女混合チームができてきています。このようなところからも、男女共同参画の意識が醸成されてきつつあるのではないかと感じますね。

これまで男女共同参画というと、男性優位の社会の中で女性が活躍できずにいるといった、遅れている部分に焦点を当てているようなものもありました。しかし、男性だとか女性だとかではなく、多様な人材が協力し合って輝く社会になることが重要だと思います。

個人的に見ると、本学は非常に働きやすい職場です。2023年5月時点で、本学の実技系の教員のうち女性は15.4%と、割合は多くはありません。しかし、業績の評価は平等で、女性だからどうだということはなく、とても良好な環境だと感じています。

仮屋薗副課長:私も長くここに勤めておりますが、仕事では男女を意識したことはなかったですね。今回は女性の活躍をテーマとしたシンポジウムを開催しましたが、たとえば、今後は男性の育児休業取得の推進なども考えたい。誰もが働きやすい職場環境作りについて伝えていきたい、と思っています。

山田教授:さらには、女性アスリートや女性研究者が普通に活動しやすい社会にしていきたいですね。そのために重要なのは、女性教員の割合といった数字だけではなく、中身だと思います。

どのような女性がどういう活動をしているのか、どのような女性を社会に送り出すのか、誰がどのような研究をしているのか、そのような中身を発信できる大学であればいいと思っています。

これから大学に進学される皆さん、本学で私たちと一緒に、誰もが活躍できる社会を考えていきませんか。